食&酒

2023.09.02 11:00

なぜ「ガチ中華」は日本に定着した? 学生ミーティングで語られたこと

2番目は「ガチ中華を食べている日本人たち」というタイトルで、留学生の王振一さんが発表した。
 
中国広東省出身の王さんは、留学前の2019年に日本へ旅行したとき、東京に中国で有名な火鍋チェーンの「海底撈火鍋」や、吉林省延辺朝鮮族自治州の料理を出す「四季香」のような中国でもかなりレアな店があることを知り、驚いたという。
 
来日後、日本のメディアでも「ガチ中華」が取り上げられているのを知り、どのような日本の人たちがこれらの店に行くのか、そこに何を求めているのかということに関心を持ったという。
 
そして大学院での修士論文にこのテーマを選び、情報収集やヒアリングを行っていた。昨年秋の羊フェスタというイベント会場で王さんは筆者を訪ねてきた。
 
以来、彼とは何度か会って話をしてきたが、これまで筆者たちが「ガチ中華」についてSNSを通じて情報共有や発信している活動を、中国からの留学生が関心を持っていることは興味深かった。
 
王さんの発表は「ガチ中華」の店などで知り合った日本人へのヒアリングを通じて、いくつかのタイプに分類するものだった。彼は以下の4つに分類している。
 
1 「ガチ中華」を懐かしいと思っている人たち
2 「ガチ中華」から生まれたコミュニケーション空間を楽しむ人たち
3 海外の雰囲気を体験したい人たち
4 料理に関する「趣味」を持っている人たち
 
1は中国留学や駐在経験のある人たちで、2は「ガチ中華」のような珍しい料理の食事会を開いて交流することを楽しむグルメ愛好家の人たち、3は筆者も以前書いたようなコロナ禍による「旅ロス」 を感じていた人たち、4は自分で料理をつくることが好きで、SNSで情報交換や発信をしている人たちだと、王さんは説明した。
 
「ガチ中華を愛好しているといっても、個人によってガチ中華像は異なる。中国での記憶や経験を話すこと、海外旅行やエスニック趣味を追求すること、料理づくりに関する趣味など、多面的なものであり、それらは個人のアイデンティティと結び付いている」という仮説を述べた。そして、もっと多くの日本の人たちに「ガチ中華」に対する想いを聞きたいと話を締めた。

王振一さんの「ガチ中華」に関する調査内容(王振一さんのパワポ資料から)

王振一さんの「ガチ中華」に関する調査内容(王振一さんのパワポ資料から)


「ガチ中華」に親しむミレニアム生まれ 

3番目の二ノ宮さんは「『ガチ中華』についてわかったこと」というタイトルで発表した。
 
彼女は入学が2020年の春だったため、コロナ禍で約2年間、実家の静岡でオンライン授業を受けることになった。「こんなの思い描いたキャンパスライフじゃない」と悩み、理想と現実のギャップに葛藤したという。
 
大学受験で初めて池袋を訪れたとき、せっかく来たのだからいろいろ見てみたいと意気込んで、夜の街に繰り出した。華やかな東口から「ガチ中華」の多い西口に移ると、「ここは本当に日本なの?」と驚きながら、ネオンと異国情緒があふれる光景にワクワクしたそうだ。

二ノ宮彩実さんが訪ねた「ギラギラ系ガチ中華」の「撒椒小酒館 池袋西口店」

二ノ宮彩実さんが訪ねた「ギラギラ系ガチ中華」の「撒椒小酒館 池袋西口店」


大学3年になり、キャンパスに戻ってきた彼女は、そのとき池袋で初めて食べたロージャーモウ(肉夹饃)という中国西北地方の現地風ハンバーガーの味を思い出し、時間を見つけては、「美味しくて、食べたことのない中華料理」を発見することが日課となった。
 
二ノ宮彩実さんが大学受験前夜、池袋で出合ったという中華風ハンバーガー「ロージャーモウ(肉夹饃)」

二ノ宮彩実さんが大学受験前夜、池袋で出合ったという中華風ハンバーガー「ロージャーモウ(肉夹饃)」


その後、彼女は大学で知り合った中国語圏出身の留学生たちと一緒に「ガチ中華」を楽しむようになった。筆者と知り合ったのは、約1年前のことで、大学の先輩を通じて東京ディープチャイナの活動を知り、前述の中原さんのようにウエブライターになった。
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写真=中原美波、王振一、二ノ宮彩実、東京ディープチャイナ研究会

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