二ノ宮さんは「ガチ中華には、日本社会のまなざしの変化、すなわち日本にある異国空間としての再発見、再評価が反映されている。また料理そのものだけでなく、料理の提供者にも着目していることが新しい」と言う。
SNSなどを通じて情報を発信することには「プロモーション活動の側面があり、中国人経営者による対同国人ビジネスである飲食店を『ガチ中華』とラベリングし、これまでの中華料理とは差別化して日本人顧客を獲得するきっかけづくりを行っている」と二ノ宮さんは見ている。
しかし、それは一方で「『ガチ中華』の現地化のプロセスにもなっている」と指摘する。それは「『ガチ中華』から『町中華』という一様な変化ではなく、これまではみられなかったようなエスニック性を保ちつつ、新たな消費者を取り込む形での『現地化』が起きているのではないか」と彼女は考えている。
今回、発表をした3人の学生は、それぞれ世紀の変わり目の1999年、2001年、2002年の生まれ。いわゆるミレニアムの前後に生まれているのだが、日本を代表する「ガチ中華」の「味坊」が東京の神田にオープンしたのが2000年1月9日 。池袋を象徴する老舗「ガチ中華」の「永利」のオープンは1999年12月である。
つまり、彼らが生まれた時期と「ガチ中華」が日本に現れ始めた時期が同じなのである。
実は、筆者の息子もほぼ彼らと同世代なのだが、この年代の人たちは小学校に入学する頃からすでにクラスには両親が外国人など、海外と縁のある生徒があたりまえにいた。また高校時代のアルバイト先でも、大学のキャンパスでも、就職先でも、外国人が身近にいる環境で成長してきた。
多文化社会の日常というものを子供の頃から知っている最初の世代と言えるかもしれない。今回、学生たちの発表を聞いて、そんなことを考えた。
イベントの第2部は「あなたにとっての『ガチ中華』を語ろう」と題され、二ノ宮さんが企画した。参加者全員におすすめの店、行ってみたい店とその理由を発表してもらい、それをGoogle mapに落として共有するというものだ。「ガチ中華」に詳しい参加者ばかりで、大いに盛り上がった。
ちなみに、打ち上げは、池袋の「ガチ中華」人気店、創作雲南料理の「食彩雲南」で行われた。