宇宙

2023.08.28 15:00

原始彗星を「待ち伏せ」し接近観測 ESAの新ミッション


コメット・インターセプターは、観測対象となる彗星を特定せずに打ち上げられる可能性が高い。地球と太陽の重力と遠心力がつり合うラグランジュ点(L2)と呼ばれる領域に到着すると、そこで待機態勢に入り、長周期彗星に狙いを定めて接近観測する絶好のチャンスを待つ。

パユサルによると、現時点での公式の基本計画では、最長3年の待機期間を経てから、対象の彗星を接近観測するための惑星間飛行を実施する。

OPICは、エストニアの天文学者エルンスト・エピック(Ernst Öpik)にちなんで命名された。エピックとオランダの天文学者ヤン・オールトは、太陽系の外縁部を取り巻く巨大な「彗星のたまり場」があるとする説を提唱した。これは現在「エピック・オールトの雲」として知られている。まさにこの領域からやって来る彗星こそが、コメット・インターセプター探査の科学ターゲットなのだ。

ESAによると、OPICの目的は、対象彗星の核の表面地図を作成することだ。このミッションでは、探査機の側面方向を向いた自律型カメラを用いて、彗星の塵(ちり)のジェット(噴流)を可視光と赤外線の波長で観測できる見通しだという。


コメット・インターセプターの探査機B2に搭載された光学ペリスコープ(潜望鏡)彗星撮像器(OPIC)。矢印の向きが探査機の飛行方向(Comet Interceptor / OPIC / UT Tartu Observatory (Pajusalu et al.) (Licensed under CC BY 4.0)

コメット・インターセプターの探査機B2に搭載される光学ペリスコープ(潜望鏡)彗星撮像器(OPIC)。矢印の向きが探査機の飛行方向(Comet Interceptor / OPIC / UT Tartu Observatory (Pajusalu et al.) (Licensed under CC BY 4.0



このカメラは、潜望鏡のような折り畳み式の鏡を用いて、探査機の飛行方向に垂直な状態で動作する。カメラに潜望鏡を取り付けた目的は、探査機がわずか約400kmの距離まで最接近する間に、彗星から放出された粒子を装置のガラス光学系に当てないようにするためだ。

パユサルによると、これは潜水艦の潜望鏡に似ているという。

ターゲットの彗星特定は困難を予想

コメット・インターセプターのターゲットを識別する作業グループは、すでに観測対象となる彗星を特定する準備に取り掛かっているが、パユサルは、これは非常に難しいプロセスになるとみている。

チリに新たに建設されているベラ・ルービン天文台に、最大の期待が寄せられている。パユサルによると、この天文台を活用すれば、現在可能なよりも早期に天体の発見が可能になるはずだという。ターゲットとなる彗星は暗い天体なので、その軌道を正確に把握し、接近観測が可能かどうかを判断するには、大量の観測データが必要になる。

OPICの観測結果で最も期待されるものは?

パユサルによれば、内太陽系に初めて入ってくる、原初の状態のままの天体の表面と内部コマ(核の周囲を取り巻く星雲状のガスや塵)の地図を作成することが、最も重要な成果となる。OPICの観測データを他の機器のデータとともに処理して、対象天体とその近傍の環境の包括的な3次元モデルを作成する予定だという。

ミッションが宇宙生物学にとって重要である理由

太陽系最初期の状態をより正確に推定することで、当時の化学組成が分かると、パユサルは説明する。これにより、生命が出現する前の初期太陽系に何が存在していたかに関する理解を深めることができるという。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔・編集=遠藤宗生

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