褐色の自分の肌に似合う髪と瞳の色を探して、試しに元の黒髪黒い目から1番コントラストが高いものにしてみようと、金髪と青いカラーコンタクトを選んだ。その「少しだけ奇抜なファッション」のつもりではじめたことが、別の意味を持ち始めたのは、モデルの仕事を始めてからだ。
「このデザインされた見た目が、社会からは予想以上に意味を持って受け止められたことに私自身が驚きました。容姿で人種をわからなくするというコンセプトは、社会からの反応を受けて構築した後付け。子どもの頃からずっと感じてきた“異物感”を逆手に取り、自分の身体を使ったインスタレーションのような表現です」
モデルとして自分自身が商品化されたことで、容姿に対しての社会からのさまざまな反応が「シャラ ラジマ」の輪郭をクリアにしていった。その一方で、輪郭の内側にある、本来のアイデンティティを強く意識するようになったと話す。
「私が私たる所以はなんなのだろう、自分が譲れない、守りたいものはなんだろうと、考えるようになりました。自分がモデルという商品として出るようになって、社会から教えてもらったことは大きかったです」
「ボーダーレス」という没個性
ユニークな容姿が認められ、モデルとして活躍する場面が増えいくと、今度は、モデルに求められるのは本当の個性ではない、と違和感を感じるようになった。「個性が大事と言われるけれど、モデルに求められているのは個性というより、クライアントが求めている特徴なんですよね。例えば有色人種とか、プラスサイズモデルとか。マーケットに受け入れられるためには、ある一定数の人に受け入れられる個性が求められるからです」
例えば、“すきっ歯のモデル”が流行った時期があるが、それは個性というより、新しい一つの分類に近い。「本当の意味での唯一無二の固有性が求められてるわけではない、という構造に気がつきました」
個性を求めるが故の没個性というジレンマは、モデルの世界に限ったことではない。多様性やボーダレスという言葉は日常に溢れているが、その一方でSNSでの誹謗中傷は後を絶たない。自分の個性や意見を全面に出していくことにリスクが伴う現実は、コロナ禍でむしろ加速したといえる。
「インターネットでのつながりがより強くなったことで、一つの視点や意見が全体の意見のように広がることが増えていきました。加えて、コンプライアンスが強くなったことで、自由な活動や発言はセーブされる傾向にもあります。本来持っていた個性が失われ、ボーダーが融解し、のっぺりと画一化された世界ができ始めている。もしこの状態をボーダーレスと呼ぶのであれば、それはとても怖いことだと思います」