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2023.08.25

アラスカ育ちの帰国子女、規格外のスーパー女性警視が活躍する警察小説「アガタ」

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もうおわかりのことと思うが、公園で浩也と話をしていた女性というのが、本作品のヒロイン、「アガタ」こと鵜飼縣だ。Tシャツの裾からへそが覗く、ミニスカートとピンヒールという姿は若い刑事を戸惑わせるが、彼女もまた別ルートで、小さな町で起きた女子美大生が殺された事件の情報を察知していたのである。

彼女が率いる「与件記録統計分析係第二分室」という部署は、警視庁本庁舎の地下2階の片隅にあって、名前こそ仰々しいが、縣の他には元ハッカーの道しかいない。事件前夜、摘発されたばかりの投資詐欺事件の関連情報を調べるうち、怪しいサイトを探りあてた道は、上司である縣の耳に入れる。その案件が、美大生殺しの事件と深いところで繋がっていたのだった。

事件発覚からほどなく捜査本部が立ち上がり、刑事たちによる靴底を擦り減らしての地道な捜査が始まるが、そこに神出鬼没の超エリート警視・縣が、別の角度から事件に光をあてていく。つまり本作は、ローテクとハイテクが同居するユニークな警察小説なのだが、実は読みどころはそれだけではない。

ユーモアとペーソスを交えた群像劇

通常、捜査本部の捜査は警視庁捜査一課と所轄署の合同で行われるが、捜査一課の面々には普段の業務であっても、所轄の刑事たちにとって殺人事件などの重大犯罪は、一生に一度あるかないかの一大事なのである。晴れの舞台に誰もが張り切るが、経験の違いから摩擦が生じることもある。

そんな捜査本部のリアルな舞台裏を、作者はユーモアとペーソスを交えた警察官たちの群像劇風に描いていく。
 
それにしても、本作のタイトルロールでもある「縣(アガタ)」とは、いったい何者なのか。子どもたち語り聞かせる奇想天外な生い立ちといい、二十代半ばで警視という異例の出世ぶりといい、すべてが規格外としかいいようがない。自分を飾る気などないのに、目立たずにはおれない強烈な個性と存在感には、カリスマの雰囲気も漂う。

そんなハイパーな縣の大活躍に息を呑む読者を弄ぶのかのように、この「アガタ」の装丁には、「AGATHA(アガサ)」と意味深な英題併記がなされている。

実はミステリの女王アガサ・クリスティとのシンクロは単なる言葉遊びではなく、巻末に参考文献として記された「そして誰もいなくなった」にも理由があるのだ。読み進めるうち、その拘りの意図を察した読者は、ニヤリと頬をゆるめるに違いない。

当初からの読者としては、年代記となりつつある「脳男」とは、ゆるやかな刊行ペースに合わせ気長に付き合っていく覚悟を決めた。その見返りと言ってはなんだが、「アガタ」もシリーズ化し、続編、続々編をどんどん読ませてほしい。そんなわがままな願いを、作者に聞き届けてもらえればと思う。

アガタ(講談社)

首藤 瓜於『アガタ』(講談社)

文=三橋 暁

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