気候・環境

2023.08.17 14:30

世界最高峰「ヒマラヤ山脈の形成史」を塗り替える地質学の最新研究

ほぼすべての鉱物には、結晶構造中に微量の酸素が含まれており、水(H2O)にも酸素が含まれる。酸素は3種類の安定な同位体、酸素16、酸素17、酸素18として存在する。酸素同位体の化学的性質は同じだが、質量がわずかに異なるため、重い酸素同位体を含む水分子は、蒸発や凝結のしやすさが異なる傾向がある。海に近い、より低い標高で形成された鉱物は、重い同位体をより多く含んでおり、高い標高で形成された鉱物は、重い同位体が減少し、より軽い同位体の割合が高くなる。

研究チームは、チベット南部の石英(SiO2)脈から採取したサンプルに酸素分析を行い、ヒマラヤ山脈の麓にある大規模な地質学的構造「ガンジス底盤」の基盤がすでに予想よりはるかに高い位置にあったことを明らかにした。6300万年~6100万年前までに、大規模な隆起が起きていたのだ。この隆起は、インドとユーラシアの大陸衝突が起こる前に、二つの大陸プレートの下に海洋地殻が浅い角度で滑り込むことで引き起こされた可能性が高い。

「今回の新たな解明によって、過去の気候と生物多様性に関する学説が書き換えられるかもしれない」と、イバラは結論づけている。雨と大気の流れに対する効果的な障壁としてのヒマラヤ山脈の形成は、アジアおよびインド洋全体の天候パターンをかたち作る重要な要素の1つと長年見なされている。だが、ヒマラヤ形成より前から存在する高地地形を含む、古地形の最新の復元結果によって、古気候の新たな仮説が導かれる可能性が高い。また、同じように地殻構造プレートの衝突によって形成された、アンデスシエラネバダなどの他の重要な山脈にも、今回の研究がきっかけとなり、さらなる詳細な調査が実施されるかもしれない。

論文「High-elevation Tibetan Plateau before India–Eurasia collision recorded by triple oxygen isotopes」は、学術誌『Nature Geoscience』に掲載された。追加資料はスタンフォード大から提供された。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔

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