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2023.08.22 09:00

急成長のチャットコマース 生成AI活用で専属アドバイザー誕生 

「ECモールでは商品画像や口コミなどのフォーマットがすべて決まっていて、見やすいし買いやすい。そのため日用品はよく購入されます。ただ、高価格帯商品や即決できない商品は買われにくい。一方、チャットコマースであれば、店舗と同じように、高級化粧品が実際に肌に合うかなどを事前に相談できるため、消費者個人に合わせたより充実した接客体験やサポートを提供することができます」
 
とはいえ、オフラインの接客体験をオンラインに持ち込むことは簡単なことではない。遠藤も「FAQのように、言われたことを無機質に答えるだけでは、商品は売れない」と認める。そのためジールスでは、日本特有の文化を会話設計に組み込んでいると言う。
 
「日本の接客は質が高く、世界一と言えるほどです。店に行くと『何をお探しですか?』と声をかけ、お客さんの服装や目線からニーズを汲み取ろうとします。一流のホテルなどでない限り、海外で同じ体験はできません。だからこそ、人間が会話の設計デザインをした方が良いコミュニケーション体験を作れるはずで、チャットボットを作る際も日本がもつ“おもてなし”精神を意識しています」
 
社内には、会話設計のプロ集団「コミュニケーションデザイナー」約80名がおり、金融や不動産、化粧品メーカーなど業界特化で組織を構成。1社1社カスタマイズし、企業の顧客の属性などに合わせたチャットボットを作成しているという。
 
実際ジールスは、「おもてなし革命、日本発世界一」を掲げる。日本のチャットコマース市場のパイオニアとして、多くの業界へのチャットコマースの導入を推進してきた。現在は、海外でも事業を拡大している。

生成AIで変わる2つのこと

今年4月に顧客体験のアップデートを目指した新たな取り組みを発表した。それが、AIの開発などを行う東京大学松尾研究所との「チャットコマースにChatGPTを活用した実証実験」だ。同研究所の高度なAI技術と専門知識をもとに社会実装も進めていくという。2020年にGPT-3が登場して以来、多くの試行錯誤を重ねるなかで、チャットコマースに新たに2つの可能性が見えてきたと遠藤は言う。

一つは、商品提供範囲の拡大だ。
 
これまでは、商品点数が1万点ある場合、消費者に1万点を案内する会話体験を人力で作るのはメンテナンスコストが上回って成立しなかった。
 
「これがAIであれば、1万点を素早く学習し、会話をこなせるようにできるため、チャットコマースの提供範囲を広げられます」。
 
もう一つは、顧客に寄り添ったアドバイザーの創出だ。例えば、天気に応じた商品の使い方や、過去の購買行動をもとにした商品レコメンドといったものが想定される。
 
「『明日は紫外線が強いので、この商品をメインに使うことがオススメです』という会話が成立するようになっています。すでに提供もはじめていて、自分の専属パートナーとして使われていくのはないでしょうか」

取材・編集=露原直人 文=小谷紘友 撮影=林孝典

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