ビジネス

2023.11.17 08:30

GAFA出身のみずほFG副カンパニー長に聞いた「天文学とDXの意外な共通点」

石井節子
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生活にゆとりの時間を生み出す

世の中には未だに生存欲求を満たすための煩わしい作業が存在し、人が自己実現や自己超越のために時間を費やすことは稀です。

かつての洗濯機や冷蔵庫が生活に時間のゆとりを提供したように、DXやAI技術が社会を次の次元に昇華させることができれば、生み出されたゆとりの時間がさらに明るい未来に繋がる社会のアップデートを導いてくれる可能性がある。

アレクサ天文台の話は冗談だとしても、複雑な作業を声で実行するということは、障害者に限らずより多くの人に可能性を広げることになります。モバイルにおけるユーザビリティの飽くなき追求も、個人のニーズに寄り添うハイパーパーソナライズドマーケティングも、世の中に存在する様々なフリクションをテクノロジーで克服しより多くの可能性を人に提供することに他なりません。

ストレスフリーの社会を作り人類の本懐への歩みを進める、こうした理念をもとにバタバタしていたのが私のキャリアだと思っています。点数はつけられないくらいまだ低いですが、この道のりは私だけのものではないので平気です。

馬頭星雲、巨大な暗黒星雲の一部、地球から約1500光年(柳田氏撮影)

馬頭星雲、巨大な暗黒星雲の一部、地球から約1500光年(柳田氏撮影)

存在意義を問い直す時代へ

宇宙の片隅の埃が集まって生まれた命がいつしか意識を持って、自分が何者なのかを問う。こうした奇跡の果てに生まれた命に意味がないはずがありません。ある意味、存在理由の確認です。

実はみずほでも昨年から企業理念を改めて議論し、この春、再定義するとともに、パーパスも新規に制定しました。企業も、個人も、存在意義を問い正す時代になってきているのだとすると、次の文明ステージへの薄明にいるのかもしれません。

可能性のレンガを「積み上げる」努力を

今の世はグローバル化から一転、混乱の様相を呈しています。戦乱から少し距離のある東洋の島国でさえ、小さな違いを理由に(富だけではないと思います)「分断」が進んでいると報道されています。

しかしその中で、全ての人類は共通のテーゼ、「人間はどこからきて、何のために存在し、どこに行くのか」を漠然と抱えながら生きています。

この探究こそが天文学(科学)が生まれた所以だと考えています。人類が、人種や信条を超越してその存在意義を真摯に問うことができれば、明るい未来は存在するはずです。有限な世界をほんの少し良くして次の世代に渡して行くことができれば、いつしか宇宙の全てを知る日もきっと来るだろうと信じます。

人間の本能には闘争心などだけでなく、思いやり(Compassion)があることが20世紀に認識されました。逸話ではなく科学的な事実です。社会の中でパンドラの箱に残った「希望」として育てる努力が今こそ必要とされているのでしょう。

マーケティングという枠からずいぶん話が逸れてしまいましたが、私はこうして人間の行動を科学的に見つめながら、「少しでも煩わしい作業から時間を人に返すことによって」はるかに長い人間の進化に続く、小さな小さなレンガの積み上げ作業の一片に貢献できれば、と思って仕事をしています。夢想家と笑われるでしょうか?

監修=柳田晃嗣 編集=石井節子

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