欲望の「天文学的」多様化──グッチのバッグに100均のハンカチ、の時代
高度経済成長期であれば、十人十色とはいえ、多くのひとたちが共通に求めている電化製品は何? と問うた場合、「冷蔵庫」や「テレビ」などと答えは比較的容易に出た。しかし、今は「ほしい」「ほしくない」の欲求のほかに「持たないことが美学」といった新しい価値も出現しています。カスタマーの欲望が未だかつてないほど多様化している。しかも一人がもつ個性も一つではない。十人百色、100円ショップでハンカチを買ってそれをグッチのバックに収める人を不思議とは思わないのが今の時代です。こうした多様化した顧客を理解しようとしたとき、ビッグデータを高速で解析し、共通性を見出したり、変わりゆくトレンドをいち早く理解するにはDXが必要です。
そして今年に入りさらにAI、特に生成AIが取り沙汰されるようになってきました。これはもちろん科学にも役に立ちますが、同じくマーケティングや、多種多様な分野で活用が期待されていくでしょう。これらのテクノロジーのおかげで一人一人へのきめの細かなサポートが比較的低コストに実現していくことになると思われます。
「宇宙の謎」も「人の行動の謎」も観測、解析、検証を高速に回しながら本当の姿を見つけ出していけるようになるのでしょう。人間ははるか昔に死んだ恒星の残骸から生まれた、いわば星の子ですが、その人間の研究も基本は同じアプローチで調べられるのかもしれませんね。
「ボタンがついていない携帯がほしいか?」
かつてスティーブ・ジョブズが、「お客様に何が必要かと聞いても答えは得られない」と言っていました。たとえばスマホ以前に「『ボタンがついていない携帯がほしいか?』とユーザーに聞いてもおそらく『そんなものはほしくない』と答えたはずだ」と。だからこそジョブズは、ユーザーに直接聞く代わりに、「今の人たちが本当にほしいと思っているもの」を知るためにさまざまなインサイトを集めてきて、「これがほしかった!」と言わせることができるiPhoneで答えてみせてくれた。これがプロダクトマーケティングの姿です。この背景には顧客の観察とマーケター側の鋭い洞察が不可欠です。
動く方(人と天体)に意思があるかどうか、の差はあるものの、プロダクトやサービス、もしくはニーズ発見の洞察には優れた「構想力」が必要で、これも科学とマーケティングに差はないように思えます。その中の共通する真理もまた存在しそうです。例えば、オッカムの剃刀のように。