「緩めるだけでいいのか?」
この学校の特徴について、それぞれ多数コメントがつくんですが、どのコメントにも「いいね」がたとえば1000あったら、「反対」のマークも0ということはなくて、10~20個くらいついていました。どの項目でも100%賛成ではなくて、いろいろな考え方がある悩ましいテーマなのだとは思いますが、「反対」の理由は、「緩めるだけでいいのか」「子どもを甘やかすな」という内容のもので、このことについては丁寧に説明をしていく必要があると思いました。
TVでこの学校のことをお話しさせていただいた時も、アナウンサーさんから「緩めるだけでいいのか、甘やかしすぎでは、という声がありますが、これにはどう答えますか」と尋ねられ、次のようにお話しさせていただきました。
「大人には、自分に合う人と合わない人、また環境があることがわかっていて、合わなければそこから離れればいいことを知っています。しかし、子どもたちにとって、ましてや小学校に入学したての児童にとってはどうか。彼ら彼女らにとっては、最初に出会った先生や学校こそが『社会のすべて』にも感じる。もしかしたら『世界のすべて』かもしれない。
そこでなにか合わないことがあると、自分を否定する以外に選択肢がない可能性もあります。ましてやガチガチにやることが決められている環境のなかでは、自分のなかで異なる場所や時間を選ぶという選択肢があるということも知らない。
だからこそ、不登校特例校がもつカリキュラム上の、また時間的な猶予がとても大切です。ありのままの君にあわせてくれる学校を通して、自分自身を大切にしてくれる場所や人が確かにあるということをまず知ってもらうことが、その子たちにとっては必要なのです。
そのことさえ知っていれば、高校や大学、社会に出ていったときに、またうまくいかなかったことに遭遇したときに、きっと自分を守ってくれる人や場所もいるはず、という希望につながるのではないか」。
だからこそ、本を寝転がって読める図書室も、お弁当を食べられる職員室や校長室も、ふだんから穏やかな気持ちで入れる部屋であってほしい。緊張し、むしろ後ろ向きな気持ちで入る部屋に、困った時だけ相談に行くなんてことはありえない。
保護者たちが感じる期待と不安
(ここで、参加保護者から「Slido」というツールで塩瀬氏に送信された「この学校のよさ」)「いつでも好きな場所にいられるところがいい」。「1人になれる場所があるのがいい」。──なるほど、個性の違う部屋をたくさん作ったのも、生徒たち一人一人にとって「好きになれる場所」がさまざまだろうからともたせた偏りですが、先生方や地域の方が協力してくださった結果として実現した多様な空間ですね。
(同じく参加保護者から送信された質問)「いろいろとセルフデザインで選べるのはいいのですが、なかなか決められない子はどのように支援すればよいでしょう」。
──たしかに、なんでも自由にやってという声かけもまたも、ストレスになり得ます。そういうときは、選ぶことの理由にも緩みをもたせて、好きだから、とか最初に聞いたから、とか、幅をもって考えればよいのではないでしょうか。たとえば1〜10の選択肢があったら、はしから順番にやってみればいいし、順番に総当たりでやれば、1個ぐらいは、できる、ちょっとおもしろい、続けられるかも、が見つかるかも知れません。
ここでも大事なのは、1回やったら途中でやめてはいけない、と思うと選びにくい。選択に責任をもて、というプレッシャーが選ぶことを苦しいことに変換してしまう。
「選ぶ」ということの敷居を下げ、選んでみることと選び直してみることを両方経験することが大事だと思います。「やらないか」「やる、でもやり始めたら最後まで」という具合に、0か1かでの二者択一のなかばかりで生活する必要はないんです。