「人的資本情報を開示する際、これまでは結果指標、つまりアカウンティング思考でした。けれども、ステークホルダーとりわけ機関投資家にとっては、結果に加えて未来も重要な意味を持ちます。仮に現状の指標の数値が悪くても、ファイナンス思考で先行指標を示し、『何年後にはこうなる』といった未来のストーリーを語れるようになれば、投資家にとっても魅力的な開示になると考えています」(野澤氏)
これに対し、堀尾は「人材への適切な投資がリターンにどうつながるか、これから企業がどのように改善していこうとしているかを可視化できたら、画期的ですね」と期待を寄せた。
経営陣を傍観者ではなく、当事者に変える方法
ファイナンス思考というキーワードを踏まえ、ここからは、今後の人的資本経営において企業がどのようなことに取り組んでいくべきかという点にトークが及ぶ。野澤氏がポイントとして挙げたのが、マネジメントの重要性だ。「いくら経営陣に立派なビジョンがあっても、これを実際、業務に落とし込んで遂行する中心となるのはマネージャーで、そこが機能しないと絵に描いた餅になってしまいます。実際、熟達したマネージャーがいる企業は生産性が高いというデータもありますし、生産性が上がればチームメンバーのモチベーションも向上します。熱意や能力のあるマネージャーの育成に投資するとか、熟達したマネージャーのチームの育成予算を増やすといった施策を先行指標として開示できれば、機関投資家に対する強いメッセージになると思います」(野澤氏)
ZENKIGENの1on1改善サポートAIサービス「revii(リービー)」は、まさにマネージャーとメンバーの関係性や組織の状態を可視化し、人的資本を指標化するために役立つツールだ。上司と部下の発言比率が可視化され、コミュニケーション改善や組織の生産性向上に役立つという。
マネジメントが重要だとの野澤氏の指摘を受け、堀尾から「能力のあるマネージャーがCHROに就任しても、経営陣と対等の立場でファイナンス思考への転換を迫るのは困難なケースもあります。社内での改革は可能でしょうか」との質問が投げかけられた。これに対する野澤氏の回答はこうだ。
「一足飛びには難しいので、小さな成功を積み重ねることが重要です。現状を可視化・指標化して、熱量のある熟達したマネージャーが中心となってトライと成功を繰り返す。これにより、経営陣が改善の必要性を理解すれば、彼らを傍観者ではなく、当事者に変えることができます」(野澤氏)
谷本氏は、人的資本経営に対する企業の姿勢について、「テクノロジーがあれば現状の可視化や指標化も可能ですし、それをもとに人事担当者も方向性を示しやすくなりますね」とまとめたうえで、最後に野澤氏にメッセージを求めた。
「人的資本はそもそも日本のお家芸なので、テクノロジーやデータを活用すれば、人の力を最大化して日本オリジナルの人的資本の開示を実現できると信じています。人的資本経営推進協会の活動も含め、そうした社会の実現に貢献できればと思います」(野澤氏)
野澤氏との1時間に及ぶ今回のトークセッションは、下記アーカイブで全編視聴可能だ。
>> 詳しくは、第9回の音声録音アーカイブへ
第10回には、エプコ 経営企画部 兼 人事部の佐藤すみれ氏がゲストとして登場。7月27日の配信後、記事も順次公開予定だ。