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2023.08.10 10:00

金融のプロが説く。家庭のなかのお金こそ透明性高く

川和まり 米Emotomy共同創業者、JICT、ミナトホールディングス社外取締役

親、パートナーとの死別や離別。お金のトラブルは予期せぬときにやってくる。米在住の金融のプロは、家族だからこそ、お金については透明性高く、と説く。

「お金は、自分のしたいことを思いっきりするための手段。日本ではいまだに高学歴の女性が主体的に専業主婦を選ぶケースが多いと聞くが、稼ぎ手が夫だけだと、やはり言いたいことが言えない、夫婦間での支配関係につながるのでは」
 
米国で大手金融会社勤務ののち、夫、パトリック・ボーデンとともに起業したフィンテック企業EmotomyのCFOを長年務め、2019年に米大手資産運用会社ノーザン・トラスト・アセット・マネジメントに売却(金額未公表)した際には、コンタクトから金額交渉まですべて担当した。それから3年がたち、夫は新たな会社を立ち上げたが、川和はあえて参画しなかった。「ほぼ十数年、夫との会話は仕事か子どもの話だけ。それもつまらないと思って」。現在は、日本のビジネス界での女性の地位を押し上げたいとの思いから、日本の上場企業2社で社外取締役を務めるなど、59歳で新たなキャリアを模索している。
 
夫の死別や離婚など、不測の事態に対応できない女性たちも多く見てきた。サンフランシスコでは女性たちに家庭内での金融、いわゆる投資・貯蓄にもっと関心をもってもらう活動も行ってきた。
 
自身の家庭内の資産運用は、すべて夫婦合意のうえで決めている。ETFなどの流動資産の分散投資を主体としているという。「クオンツ(高度な数学的手法を使った分析・戦略)はEmotomyの特徴でもある。市場の大きな動きに合わせて売買を決めています」
 
東京で育ち、上智大学を卒業したのちに米国にわたった川和だが、高校生の頃、家庭内で「お金」に苦労した経験がある。「サラリーマンだった父がロンドンに赴任していたころ、祖母が東京でブティックを経営していたのですが、勝手に父を保証人にしてお金を借りていた。経営は立ち行かなくなり、結局多額の負債を背負うことになりました。会社員の家庭には重く、母は大きなダメージを受け、何よりも家族全体が暗く、悲しい顔をしていたのがショックでした」
 
父は、実母を訴えることはしなかった、「いま思うと、それはおかしいと思う。わたしなら家族を守りに行った」。お金がない不自由さも味わった。その経験から、お金は心と体の独立を維持するための手段だと、川和は語る。

子どもは、上は33歳から下は23歳まで5人。現在は医師、弁護士、IT技術者など、全員が独立。日本、ニューヨーク、ベルリンでそれぞれの道を歩む。自身の財産分与に関する遺言も、夫と共にすでに作成済みで、定期的にアップデートしている。「家族だからこそお金は透明性高く、公平に」。それが川和のセオリーだ。


かわわ・まり◎1964年、大分県に生まれ、東京都で育つ。米国でバンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズLLC(現バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ)、インベスコなど金融会社に勤めたのち、夫と共にEmotomyを起業。2019年に売却後は、電子機器のミナトホールディングスやJICT(海外通信・放送・郵便事業支援機構)で社外取締役を務める。

文=岩坪文子 写真=クレメンティーン・シュナイダーマン

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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