熱波よりも多くの死者をもたらす寒波
しかし、2021年に学術誌「The Lancet Planetary Health」に掲載された研究によると、暑さよりも寒さで死ぬ者の方がはるかに多い。死者の数で見ると、暑さに関連する死亡例1件に対し、寒さに関連する死亡例が9件あるというのが現状だ。極端な寒さには、心臓血管系や呼吸系の疾患などの持病を悪化させる作用もある。例えば、心筋梗塞によって亡くなる人の割合は、気温が下がると上昇する。これは、寒さが血液の循環に与える影響を反映した現象とみられる。また、猛烈な寒さにさらされた場合には、凍傷や死に至ることもある低体温症など、寒波が引き起こす直接的な症状に苦しむこともある。
興味深いことに、上記のLancet誌掲載の研究で検証された、同じ2000年から2019年までの20年間を見ると、熱波に関連する死者数が増えている一方で、寒さによって亡くなった人の数は減っていた。しかもその減少幅は、熱波によって亡くなった人の増加数を上回っていた。
全体で見ると、2000年から2019年の期間に、極端な気温(高温と低温)にさらされたことが理由で亡くなった人の数は、1980年代や1990年代と比べて、全世界で約65万人減ったと研究チームは推計している。
寒さに関連した死亡者数と、暑さに関連した死亡者数の間に、どれだけ大きな差があるかを示すために、イングランドとウェールズという、英国内の2つの地方を例に取ろう。この2つの地方では、2000年から2019年の間、高温と関連があるとされた超過死亡数は平均で800人近くだった。一方、寒さに関連づけられる超過死亡者数は6万500人だった。Lancet誌に掲載された論文の執筆者は、そう指摘している。
興味深いことに、米国のデータでは、英国のような歴然とした違いは認められない。さらに米国では、暑さと寒さによる死亡者数の調査にあたっているのは、海洋大気庁(NOAA)と疾病予防管理センター(CDC)という2つの政府機関だが、両者が示す数字はまったく異なっている。
NOAAが「気象関連死」という名目で発表しているデータを見ると、1988年から2017年にかけての30年間において、高温に関連する死亡数は1年平均で134人だ。一方、寒さで亡くなった人は、年間平均で30人程度だ。