欧米では現在もファミリー企業が多いが、その代表的な国がイタリアである。全企業の実に99%が家族経営ともいわれるが、イタリアが誇るグローバルラグジュアリーブランドに関しては、ファッションコングロマリットや投資会社に組み込まれ、創業一族がほとんどかかわっていないブランドがいまでは大半となっている。そうした現在のイタリアンブランドのなかでは数少ない、創業家が中心となって運営されてきたブランドが、1968年ジンモ・エトロにより、当初テキスタイルメーカーとして設立されたエトロである。
そんなエトロも2021年、フランス企業LVMH系列の投資会社であるL キャタルトンに株式の過半数を売却し、戦略的パートナーシップを同社と締結したことを発表したが、エトロ家は引き続き携わっているという。資本提携と同時に新たなCEOに着任したファブリッツィオ・カルディナリは、イタリアンブランドのなかでも特にファミリー企業の印象が強かったエトロを、今後どのように運営していくのだろうか。
「L キャタルトンからの打診を受けたのち、あらためてエトロを見つめ直したのですが、現在のイタリアンブランドのなかでも本当に数少ない、“次のステージ”へ行けるブランドであること、そしてライフスタイルを提案できることに可能性を感じ、CEOとして参加することを決意しました。当時感じた可能性は、就任後すぐに自信へと変わっています。まずは5年後を見据え、これまでのエトロのビジネスを分析していますが、とてもスローな印象を受けました。そんなエトロには、ビジネスを加速させるためのチャレンジが必要です。次のステージに向かってチャレンジすることは、私の経営スタイルでもあるのです」
ファミリー企業は比較的、意思決定が早いといわれる。決定権の大半をオーナーファミリーが有しているからだが、これまでエトロはメンズ、ウィメンズ、ホームコレクションという3つのセクションのクリエイティブを創業者ジンモの次男キーン、長女ヴェロニカ、長男ヤコポがそれぞれ担当していた。そうした体制からエトロファミリーの印象が強かったのだが、どうしても統一された世界観が打ち出しにくく、カルディナリはビジネスとしてはスローに感じたのだ。
「そこでマルコ・デ・ヴィンチェンツォを起用し、彼一人がクリエイティブ・ディレクターとしてすべてのセクションを統括的にディレクションすることによって、ブランドとしての世界観をより力強く打ち出せるようになりました。
現在のエトロの規模感では、いくつもの方向にリソースを分散させるのはもったいない。それよりも統一されたブランドイメージをしっかりと確立させるほうが、市場でのインパクトも間違いなく大きくなるでしょう。それがいま、エトロがなすべきことなのです。ただし、オーナーファミリーとは常にコミュニケーションを取り、彼らからのフルサポートを受けています」