日本の勝ち筋はどこにあるか
井上:ただ、AIの研究開発はこれからも過熱していくでしょうから、日本も後れを取るわけにはいきません。私は、経済学者としてAIで生産性を高めていくことは、日本にとって必要なことだと思っています。最近、現役世代が高齢者を邪魔者扱いするような意見が盛り上がったりするじゃないですか。そういった世代間対立を防ぐためにも、生産性を上げて経済成長をすることが重要です。成長していれば、賃金も上がるし、社会保障も手厚くできますから。大澤:でもはっきり言ってしまうと、日本人はイノベーションに不向きなんですよ。さきほども言ったように、イノベーションはある意味で非合理的な判断をしないとできないんですね。もっと言えば、事前には非合理にしか見えないんだけど、後から見れば合理的に見えるのがイノベーションです。しかし、そういうタイプの判断が日本人は非常に苦手です。
だとすると、日本でイノベーションを起こすには、経済的な合理性を超えて行動するエージェントがいないとなかなか難しい。野心的で一発勝負に出るような起業家がたくさんいる国だと、国が支援しなくたっていいんですよ。でも日本の場合、そういう人間が出にくいわけだから、非合理的な判断を後押しする役割は国が担うしかないんですね。
三宅:確かに日本は継続的な敗北の中にあります。ITで負け、クラウドで負け、そしてディープラーニングのビッグデータでも負けています。GPTのような言語AIも勝ち筋は見えません。要するに、インフラはすべて外国に主導権を握られてしまったので、何をやるにしても外国にお金を払うんですね。
でも、具体的なサービスに関しては、日本は勝てる見込みがあるんじゃないかなと思います。例えば、AIを学校や会社に導入するような局面だと、日本人のほうがきめ細やかなサービスをつくり込める。そういう業界や分野では、日本がリードできる立場に立てる可能性はあると思います。
もうひとつ、日本の最大のアドバンテージは、仮想キャラクターのようなエージェントの扱いです。仮想キャラクターは日本のゲーム産業を支えています。キャラクターに何かをしゃべらせるような技術は、海外より日本は格段にうまいと思いますね。
例えばメタバースのような仮想空間を上手に使うのは、日本に分があるかもしれません。かわいいキャラクターの造形や、安心できる世界観の設計、またソーシャルゲームで育んだきめ細やかなサービスの設計・運営は日本が先んじています。
コロナによって、仮想空間の必要性は高まりました。パンデミックのようなことが起こった場合、メタバース上で社会を動かす仕組みがないと、物理的な現実が回らないことを世界は学習しました。ですから、物理的現実とメタバース的現実を架橋してドライブしていくところに未来がある。そこで日本はチャンスを見いだしていければいいと思います。