ラベンダーリング誕生のきっかけ
ラベンダーリングは、電通のチーフプロデューサー・月村寛之さん(55)が、肺がんを発症した部下の御園生(みそのう)泰明さんの闘病を職場のチーム全員で応援しようと「FIGHT TOGETHER」のステッカーを作ったことが始まり。大きな力をもらった御園生さんが「広告屋のノウハウを生かして、『がんは不治の病』といった社会の偏見をなくす活動をしたい」と、月村さんに相談し、資生堂や認定NPO法人キャンサーネットジャパン(CNJ)も加わった社会貢献プロジェクトに発展した。
2017年8月、東京で開かれた国内最大のがん患者フォーラム「ジャパンキャンサーフォーラム」の会場で、資生堂チームを主体とした「メイクアップ&フォトズ」が初開催され、大きな反響を呼んだ。
「舌はないけど」著者・荒井里奈さんの行動力
この時、岐阜県高山市から遠路参加したのが、希少がんの腺様嚢胞がんで舌を切除した荒井里奈さん。中日新聞で闘病エッセー「舌はないけど」を翌18年から21年まで執筆し、医療記者だった私が編集を担当した。
このころの荒井さんは、手術後のあごの傷跡が気になり、いつもうつむいて歩いていたという。でも、金澤さんから一生分の「かわいい」を言ってもらいながら、カメラに向かい、仕上がったポスターには、ふだんと違う髪型の自分が、誇り高く笑っていた。
この体験が、人生を切り開く力になったという。「愛知県でもラベンダーリングをやりたい」と、電通の月村さんを訪ねたのが、18年10月のこと。私も同行した。金澤さんら資生堂のメンバーも来てくれて、和気あいあいとした雰囲気で打ち合わせが進んだ。
愛知県は、東京や大阪とは違って、がん患者支援の企業活動は乏しく、資金や会場を提供してくれそうな団体も思い付かなかった。でも、荒井さんが入院・通院してきた愛知県がんセンターの医療者たちが協力し「まずはポスター展をやろう」と動いてくれた。
これまでのポスターを院内に展示することで、訪れる患者たちの励みになるし、医療者たちには「いきいきした患者さんの姿」を知ってもらいたいという思いがあった。
院内で活動する嚥下障害の患者会「つばめの会」の世話役を務める歯科衛生士の長縄弥生さんは、荒井さんと息の合った仲間で、調整役を務めた。副院長の室圭さんは、自身が理事を務めるNPO法人愛知キャンサーネットワークで協議し、展示パネルの設置費用などを負担してくれた。