京都発ものづくり企業が、世界市場を席巻した理由
西脇は、自身の暮らしを振り返りながら、京の魅力をこう紡ぐ。「長い歴史をかけて先人が紡いできた文化や伝統産業が、京都にはあります。重要なのは、それがレガシーにとどまらず、いまも府民の暮らしに根づいているところです。神社仏閣では現在も祭事が行われていますし、茶道や華道も稽古事にとどまらず、生活に欠かせないものとして伝えられています。
これは食の文化や和装にもつながるもの。私自身、幼い頃から京の行事に親しみ、季節折々の歳時記を肌で感じてきました。京都には伝統文化が現在進行形で息づいています。これは、文化を支える西陣織などの繊維産業、工芸産業もまた、現在進行形で機能しているということなのです」
工芸や精密加工の技術が集積する中で、西の最高学府・京都大学をはじめとして大学や研究機関とのコラボレーションが早くから行われてきた。明治初期の舎密局に端を発する産学公の共創は、オープンイノベーションの元祖と言える。アカデミアと産業が密接に連携し、精密機器や半導体、セラミックスといった先端技術の創出につながったのだ。
「山中教授との出会いもそうですが、京都は町衆文化の名残からか、企業や大学や団体、金融機関と、行政の距離感が極めて近いのが強みです。私は国交省で国土交通審議官などを務めてきましたが、東大の総長や教授には審議会などで名刺交換をした程度でした。
しかし、京都では京大の山極壽一前総長、そして現在の湊長博総長らと談笑する機会に事欠きません。雑談がてら、R&Dの最前線に触れることができるわけです。これは産業界も同様で、産学公の意見交換、情報交換は非常に活発に行われています。何かあれば、すぐにオール京都で走り出せる。そんな強みにつながっています」
村田製作所やオムロン、任天堂などの京都発のものづくり企業は海外売上高比率が高いのも特徴だ。しかし、海外市場を席巻しながら、なお京都に本拠を置き続ける。他方、ボストン コンサルティング グループ(BCG)やLINEなど、西日本の拠点に京都を選択する企業も増えてきた。エクセレントカンパニーを引きつける磁力の源はどこにあるのか。
西脇は「京都が持つ総合力」と明言する。
「世界的に著名な先端技術を持っている企業の集積があること。これはもちろんですが、京都の文化基盤が大きい。企業からは、京都オフィスの人員を募集すると、外国籍の方が多く応募してくると聞きます。京都に住みたい、京都で働きたい。生活の場として、京都というまちにトータルな魅力を感じてくれているのです。これこそ、1000年を超えて受け継がれてきた文化の力でしょう」