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2023.07.24 12:00

走る京都府知事、次代スタートアップ支援の旗印 悠久の歴史をバトンタッチ

京都府が2020年からスタートアップ支援に本格的に乗り出した背景には、危機感がある。

「これまで伝統産業とアカデミアの集積を基盤に先端技術を生み出してきた京都の強みを紹介してきました。ただ、それは現在の京都府が直面する課題にも直結するものです。ニデック以降、スタートアップから飛躍的な成長を見せた企業がないのです。

グローバルの競争が激しさを増す中、イノベーションを興し続けていかなければ、京都の産業に未来はありません。強い危機感から、私たちは起業人材の発掘や支援をするプロジェクトに力を入れてきました。IVSの誘致もその一つです」

観光地としてだけではなく、ビジネスの場、起業の場として京都のポテンシャルを示したい。西脇の思いは、京都の力をグローバル化が進む世界の課題解決につなげることに注がれている。

課題解決へのアプローチとして京都府が掲げるのは「産業創造リーディングゾーン」だ。フードテックや脱炭素など、社会課題の解決に寄与するテーマを設定し、府内の拠点に企業や研究者を集積。共創を支援しつつ、オープンイノベーションを起こしていくという構想である。

「世界的な食の課題を先端技術で解決するフードテックでは、食からイノベーションを起こす研究開発拠点を整備しています。国の登録無形文化財に指定された京料理やだし文化を培ってきた京都は、食文化とテクノロジーの宝庫です。一次産業の生産者と研究開発を連携させ、産業を集積させていければ。

また、京都はアニメ、映画、ゲームなどのコンテンツ産業が盛んです。こうした技術基盤を生かし、メタバースやWeb3.0などのテクノロジーや新技術との融合を図っていきたい。それが太秦メディアパーク構想です。次代のコンテンツ制作、バーチャル空間を介して社会課題解決もねらいます。

このほか、アート思考をテクノロジーと融合させるアート&テクノロジーヴィレッジ、京都議定書誕生の地からサプライチェーンやまちづくりの脱炭素を考えていくZET-valleyなど、さまざまなアプローチを同時並行で進めているところです」

「関西万博は、日本をアピールする最大のチャンス」

2025年には大阪・関西万博の開催を控え、関西圏にさらなる注目が集まる。西脇の視線の先には、万博をゲートウェイとしてインバウンドの誘致はもちろん、多様なスタートアップの創出や企業間の共創がさらに活発化した2025年の京都の姿がある。

「関西には、7府県が防災やドクターヘリの運用などで連携する関西広域連合があります。大阪・関西万博ではこの連合で関西パビリオンを設置します。関西各エリアの魅力を発信し、全体で盛り上がっていきたいと話し合っているところです。

万博はグローバルに日本をアピールする最大のチャンスです。自治体同士は健全な都市間競争でしのぎを削るライバルではありますが、それは切磋琢磨であり、あくまで共に成長を指向していくもの。京都ならではの発信力を活かしつつ、関西の各都市、自治体も盛り上がっていけばうれしいですね」

スタートアップ支援と新産業の創出を目指す中、都市プレゼンス発揮のため並走するメンバーも増えてきた。立ちはだかる課題の解決に向け、今日も知事は都を走る。


西脇隆俊◎京都府知事。1955年京都市生まれ。1979年東京大学法学部卒業後、建設省(現国土交通省)に入省。大臣官房広報課長・会計課長や道路局次長、総合政策局長、大臣官房長、国土交通審議官などを歴任し、2016年には復興庁事務次官を務める。2018年に京都府知事選挙に当選し、現在2期目を務める。

文=佐々木正孝 写真=コイケ マコト

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