暮らし

2023.08.04 10:00

これからのビジネスに「コンパッション」が必要なワケ

ただ、慈悲にも、「続かない」「差別がある」「盲目である」という欠点がある。

例えば誰かが困っているその瞬間には支援できたとしても、それを長く続けていくことは体力的にも、金銭的にも大変だ。また家族と赤の他人では、やはり接し方が違ってくる。慈悲は全ての命に無条件に幸せを与えるもののはずなのに、差別してしまうリアルがそこにあるのだ。

さらに、他人や物事のためにと力を注ぐのだが、自分のことがおざなりになり、結局自分が潰れてしまうことがある。アメリカ人の仏教指導者であり人類学者でもあるジョアン・ハリファックス博士は、著書「コンパッション」の中で、このことを「病的な利他性、共感疲労」と説明している。博士が、死にゆく人に寄り添うボランティア活動を行うなかで、現場をともにする医師やケアワーカーが、患者さんに寄り添いすぎて燃え尽きてしまうケースを目の当たりにしてきたという。

このような欠点があるということで、後世の仏教では慈悲を小慈悲と大慈悲に分けて考えることになった。人間の行う慈悲は不完全な小慈悲、仏の慈悲は一点の曇りもない大慈悲とした。

慈悲の解釈を巡っては、実はさまざまな批判も存在している。慈悲に欠点があり、人間は小慈悲しかなし得ないのなら、所詮は絵に描いた餅じゃないか。人間と仏が究極的に同じと見る仏教の思想からすると、小慈悲と大慈悲分けるのはおかしいじゃないか。仏の大慈悲があるならば、なぜこの世の中から苦しみが消えないのか。などが挙げられる。

それぞれに議論の余地があるが、たとえ慈悲が人間を超えたものであろうとなかろうと、それを人類全体で大なり小なり意識すれば、世界が良い方向に向かうことに疑いの余地はないだろう。

地球環境に配慮したり、マイノリティを支援したり、昨今のビジネスシーンでは社会全体への思いやりを考慮しなければならないのは承知の通りだ。そこで慈悲を発動させられれば、生み出す商品やサービスは人々に共感されるものとなり、それはすなわちビジネスの成功にも直結する。つまりコンパッションの醸成は、これからのビジネスパーソンの必須スキルの一つとも言えるのではないだろうか。

さらにAIやメタバースの発展にあたり、倫理観を問う動きも活発化するであろう。こうした時代感の中、未来の羅針盤「コンパッション」を多くの人々が発動させ、それらが有機的に繋がって地球を包み込み、次の世代に自信を持って命のバトンを渡せることに期待をしたい。

文・写真=国府田 淳

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