こういうところとビジネスをやるとリスクがあるからやめておこう、清廉潔白な関係だけでビジネスしよう、となってしまうと、ビジネスの規模をどんどん小さくしてしまう結果になってしまう。ビジネスチャンスを広げるためにも、そうしたリスクを低減する措置やツール、例えば第三者機関を入れたり、可視化をして透明性を高めたり、いろんな手段がありえますが、それらを整えていく必要があると思います。
日下部:経済安全保障や人権などのサステナビリティ、さらには地政学リスクへの対処などの「企業への要請」ですが、規制が具体化した後のコンプライアンス活動というよりも、規制などが具体化する前の段階で、新たなリスクにどう備えて対処していくのかという企業経営としてのコミットメントとリスク制御能力が問われています。この制御能力を高めることが、「企業評価」、つまり、企業のレピュテーションを維持し向上することにつながります。
この点は、我々が品質問題で苦労した内部から発生するコンプライアンスリスクにも共通します。米国司法省の一連のガイドラインでは、規制当局が不正を検知するのは不可能なので、企業が自主的に不正の芽を検知し早期に対処する能力を高めるところを評価するという発想があります。可視化や不正検知の新しい試み、企業体質を変える努力を評価するという方向に変わってきていると感じています。
私は、かつての貿易摩擦や石油危機時のように、劇的な情勢変化に対して海外展開や省エネ転換といった事業構造そのものを大きく変革し競争力を高めてきた日本企業には、このポテンシャルが十分あると思っています。
新しいリスクの予兆を素早く検知し、物事が起こったら迅速に対応する能力をどう構築するか。経済安保、サステナビリティ、地政学といったかつてない複雑な情勢変化に応えることができる、定番のメニューはまだありません。そのなかで、新たなリスク制御の仕組みを開発することに先駆けることができれば、企業評価の基礎になってくると思います。
すずき・かずと◎地経学研究所長。立命館大学大学院修士課程、英国サセックス大学大学院ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大学大学院准教授、北海道大学公共政策 大学院准教授・教授などを経て現職。2013年から15年まで国連安保理イラン制裁委員会専門家パネルメンバー。
くさかべ・さとし◎横浜国立大学卒業。1982年通商産業省(現 経済産業省)入省。経産省官房長、資源エネルギー庁長官など歴任。2019年に三菱電機顧問として参画。20年から常務執行役。現在、CROとして経済安保、リスクマネジメント、法務など担当。
しおの・まこと◎経営共創基盤(IGPI)共同経営者、地経学研究所経営主幹。慶應義塾大学法学部卒業、ワシントン大学ロースクール法学修士。国際協力銀行とIGPIの合弁会社であるJBIC IG Partnersでは、最高投資責任者を務め、グローバルに投資を行う。