このように感じる理由について、平松氏は2つの例を挙げて説明した。1つ目は、導入したオンデマンド型教育の受講率が一番高かったのが、50代社員であること。2つ目は、ポスティング制度を活用した社員の割合が、20代〜50代までほぼ同じだったことだ。平松氏は「年功序列的な人事にも長らく関わってきて、『40代後半や50代になると、社員はそれほど成長にこだわらなくなるし、勉強に意欲的でなくなるのではないか』と思い込んでしまっていました。しかし、実際はまったくそうではないことに気付かされました」と語った。
社員1人ひとりの「マイパーパスを削り出す」
終盤、議題は富士通の社員が1人ひとり設定しているという「マイパーパス」の話題に。「社員のマイパーパスと、全社の方向性のすり合わせをどのように行っていますか」という質問がリスナーから寄せられた。平松氏は、マイパーパスの必要性について「パーパスを眺めてもらうだけでは、社員の主体的なやる気を引き出し、ハートに火を付けることは難しい。だからこそ、1人ひとりにも内なるパーパスが必ずあるという思いを持って、対話型でパーパスを削り出す『パーパスカービング』のプロセスを適用しています」と説明し、次のように続けた。「パーパスが存在意義を表す『Why』だとすると、組織のビジョンはどこに向かうのかという『Where』を示すものです。同じように社員1人ひとりにも、マイパーパスを決めた後に、上司との1on1の中で個人の成長ビジョンを作ってもらいます。成長ビジョンができると、組織が向かう方向性の中でどのように成長ビジョンを実現できそうか、あるいはそのためにどんな成長機会を掴むべきかといったことが見えてきます。
こうしたコミュニケーションを定期的に行うことで、評価やアサインメントへの納得感も高まるのです。こうした、パーパスドリブン経営を実践する上でのコミュニケーションモデルを『コネクト』と呼んでいます」(平松氏)
それに対し堀尾も、「ネーミング1つとっても、社員の方がしらけないようにこだわって、隅々までデリケートに作っている印象があります」と評価。続けて、「人的資本経営の情報開示にあたっては、どのようなスタンスを大事にされていますか」と別の問いを投げ掛けた。
これを受けて平松氏は、2022年3月から6回にわたって実施した『CHROラウンドテーブル』を紹介。これはパナソニックホールディングス、丸紅、KDDI、オムロンのCHROなどとともに、企業価値の向上につながる人的資本経営の実践に向けて、各社の経営戦略や施策などを議論する場で、振り返りのレポートもWeb上に掲載されている。