サイエンス

2023.07.05 09:30

人口密度が高いほど増えるネコ、人獣共通「トキソプラズマ症」の拡大リスクに

Getty Images

チューらの研究チームが行った再解析で、トキソプラズマ原虫のオーシスト排出と最も顕著な関連がみられた要因は、人口密度の高さだった。また、温度も重要な要因であることが明らかになった。
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具体的には、日内平均気温の変動が大きいほど、オーシスト排出量が(特にイエネコにおいて)多くなっていた。その一方で、乾季の周辺温度が高いほど、野生のネコ科動物によるオーシスト排出量は減少することがわかった。

関連が疑われたその他の要因(年間降水量や年間平均気温など)については、オーシスト排出量との相関は見られなかった。

イエネコにおける、オーシストを排出する個体の割合は、野生のネコ科動物と比べると低いものの(参照)、イエネコの個体数は膨大であり、また人口稠密地で生息しているため、野生動物と人間に対するトキソプラズマ原虫オーシストの感染源として重要だ。
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イエネコの生息密度については、世界規模の推定が行われていないため、この研究では、人口密度を代替指標とした。人口密度が高く、人間活動が活発な地域ほど、捨てられる飼いネコ、外飼いネコ、脱走した飼いネコが多く、また野良ネコのコロニーへの給餌量も多いと考えられる。

もう1つ考慮すべき要因は、都市化が進み人間活動が活発になった地域では、人獣共通感染症が増える方向で周辺環境が変化する可能性があることだ(参照)。こうした複合的な要因から、自由に生活するイエネコの個体数が増加すると、環境中へのオーシスト排出が促進され、トキソプラズマ原虫の疫学的特性と感染パターンが変化するおそれがある。

今回の新たな知見と、既存の研究で提示されたデータを合わせて考えると、人口密度の上昇と、気温変動の不安定化によって、トキソプラズマ原虫だけでなく、その他の感染症の蔓延を招きかねない環境条件が揃うおそれがある。

政策決定者らは、今回の研究結果に基づき、トキソプラズマ原虫の感染を抑制するため、野良ネコの個体数管理に重点的に取り組むべきだとチューらは提言している。

「気候変動や人間活動が、病気の感染経路に与える影響については、まだ完全に解明されていないことが多い」と、著者らは指摘する(参照)。「今回の研究で我々は、こうした要因と、ネコによるトキソプラズマ原虫の排出との関連を見いだした。こうした影響は、感染に脆弱な人々や、野生動物へのリスクにも波及する可能性がある」と、チューらは論じている。

出典:Sophie Zhu, Elizabeth VanWormer, and Karen Shapiro (2023). More people, more cats, more parasites: Human population density and temperature variation predict prevalence of Toxoplasma gondii oocyst shedding in free-ranging domestic and wild felids, PLoS ONE 18(6):e0286808 | doi:10.1371/journal.pone.0286808

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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