高齢化団地に学生寮 神奈川大学サッカー部の挑戦とは

貢献することでチームも強くなる

山口さんから“成長”という言葉が語られたが、それは人間的な成長はもちろんのこと、サッカーのピッチの上でも言える。

「僕はあまり上手い選手ではないんですが、人が見ていないところで働くことによって、試合中でもみんなのことを見られるようになって、自分のためだけではなく仲間のために走ることが意識してできるようになった気がします」(山口さん)

実際、寮でいろいろな役割を担ってきちんとやりきっている学生は、ピッチの上でも輝いている。寮での活躍とサッカーでの活躍の度合いは比例しているのだと大森監督は言う。

「サッカーは90分の試合時間中、ボールが動いている時間は60分ぐらいしかないんです。30分はボールが外に出てしまったり、ファウルプレーなどで審判が笛を吹いて試合を止めたりといったプレーできない時間。そして、ボールが動いている60分中、ひとりの選手がボールを持つのはせいぜい1、2分しかありません。その他の58分、59分はずっとチームのために走っているんですよ。

山口くんは特にそうです。彼は今、自分を上手い選手ではないと言いましたが、上手くはなくても良い選手なんです。誰かが困っていたら、自分から進んでコミットしようとする積極的な姿勢が見られますし。そこを頑張るようになると、チームのためにすることが貢献として評価されるようになるし、チームも強くなれる。

サッカーはそういう循環のスポーツで、魔法のようなことが学べる素晴らしい競技なんです。我々神大サッカー部は、卒業生に今をときめくサッカー日本代表の伊東純也選手もいるようなチームですが、同時に大真面目に団地での活動に取り組み、サッカー選手としての資質を伸ばしながら地域にも喜ばれるという無駄のない循環型の教育のしくみを実践しています」
今年の標語は“ウェルビーイングフットボールを標榜しよう”と決めていると語る大森酉三郎監督

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大森監督のビジョンは、さらに選手たちの卒業後のこと、社会に出て行ったあとのことにも及ぶ。

「竹山団地で、自分たちとは違う背景、価値観を持った人たちと交流することは、やがて“待ったなし”で社会に出て行く学生アスリート達を社会化する作業でもあると思うんです。

学生時代、競技で培ってきたことが、そのまま社会に出てイコールで繋がるかというと、残念ながらそうではない部分もある。社会に出て結果だけを求められるようになってしまうと辛いじゃないですか。だから、その間の橋渡しをするような日々の生活やそれを支える地域社会の仕組みなどを学ぶことは、学生時代と社会に出てからの生活を繋ぐもので、それを持たないとせっかくサッカーで培った資質もただの宝の持ち腐れになってしまいます。

そうならないために、サッカーの戦績を残すこと、竹山団地で地域社会の一員として活動すること、両立は大変ですがふたつのことを並行して力を合わせてやっていく。我々のサッカーは、まさにウェルビーイングを標榜した活動と言えるのではないでしょうか」
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文=定家励子(パラサポWEB) 資料提供=神奈川大学サッカー部

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