この記事では、特に人的資本経営に絞って紹介します。
45社からお話を聞く中で、彼らが最も重視するステークホルダーが「社員」であり、経営の中心に据えるものは「社員の幸せ」だということが分かってきました。
この「社員の幸せを中心とする経営」は、社員がただ働きやすいだけでなく、働くことによって幸せを享受できるような、最適な関係性、最適な環境、最適な経営状況を創ることに注力すること。その結果として、持続的な付加価値や新たな雇用の創出が行われる好循環をデザイン(経営・設計)していくことではないでしょうか。
下記の概念図は、そんな「社員の幸せを中心とする経営」を因数分解した概念図です。「会社の羅針盤」「経営戦略」「組織づくり」の3つの観点から各社のアクションを22の項目で整理を試みました。ここから、後ほど5つの事例を紹介します。
「社員の幸せを中心とする経営」の効果
今回、モデル企業45社に対して、「社員の幸せを中心とする経営」や「人的資本経営」に「経営者(経営陣)がシフトした」と考える起点/タイミングと比べた現在の状況についても調査を実施しました。その結果、およそ75%強の企業が業績(売上・利益)の伸長を果たすとともに、回答したすべての企業が賃上げ(一人当たり給与支給額)の増加を達成していることが分かりました。
また、60%弱の企業が採用を増やすとともに、およそ75%強の企業において離職率の減少につながり、企業の成長と人的投資の好循環が起きている可能性が示唆されました。 併せて、このような経営にシフトしてから現在までのタイミングは企業によって様々ですが、70%弱の企業が5年以上かけて取り組んでいることから、企業風土の改革として長い目線で取り組む必要性も示唆されています。
それでは、先述の「会社の羅針盤」「経営戦略」「組織づくり」の3つの観点から事例を紹介していきます。
パーパス=「サンエース物語」の作成
サンエース(神戸市)の「経営の根幹」は、これまで培ってきた企業風土や企業として社会にどのような貢献をしていきたいか、その想いを紡ぎ、言語化した「サンエース物語」です。
「皆そろって幸せになりたい」という精神のもと、ありたい姿・あるべき姿などを紡いだ「理念BOOK」は、全社員が一人一冊持ち、いつでもその原点に立ち返られるようにしています。
そのきっかけは、1995年の阪神淡路大震災。幸い大きな被害は免れたものの、一変した神戸街を見ながら、不確実な自体が起きても、会社として揺るがない価値観を形として残しておく必要がある。そう当時の経営者や幹部が考え、議論し、その内容を経営者が手書きで書き残したものが「サンエース物語」の始まりだそうです。