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2023.06.19 08:30

凸版印刷が「ミラーワールド」の構築に挑む理由

—— 一方で、デジタルに存在するものに対して、リアルと同等かそれ以上の所有感や愛着を持ちづらいという側面も根強くあると思っていて。その辺りはどう考えますか?

GEMINIのプロジェクトを進める際に、メンバーからキーワードとして上がったのが「ボーダレスアタッチメント」です。日本語にすると「境界なき愛着」というようなイメージで、凸版印刷としてはそれを目指していきたい。

ロボットやデジタルペットだけでなく、例えば机やペンでも、所有者の感情が内包されてそこに“文脈性”が存在すれば、その人にとっては価値になります。デジタルやバーチャルなものに対しても愛着は成立しうるのではないかと思います。

——例えば、ゲームで特定の状態を保持するのも愛着の一つかもしれないですね。僕らと比べて、デジタルネイティブやα世代の子どもたちは、もしかしたらまったく違う感覚を持っているかもしれません。

デジタルネイティブもそうですが、その先のメタバースネイティブまで考えると、感受性や思考回路がまったく変わっていそうですよね。メタバースは2030年以降に普及期が来ると言われています。

その時期に社会を支える世代の若手たちと一緒に、コミュニティやプロジェクトを進めていくことが必要だと思っています。


ミラーワールドの実現のためのマスターピース

——ミラーワールドの社会実装に向けてテクノロジーは欠かせませんが、デジタルとリアルが重なり合い実生活者を巻き込んでいけるという点でAR(拡張現実)の親和性が高そうだなと思います。

ARはありですよね。凸版印刷はすでにVR(仮想現実)にも取り組んで着手していますが、凸版印刷の持つ素材から現実が拡張していくような未来体験は面白そうですよね。壁や天井や床など、発展の余地がありそうです。

——社会実装にあたっての課題はありますか?

技術的なところではミラーワールドに没入するためのゴーグルの最適解についても考えなければいけませんが、3次元的な情報を安定的に実現できる通信網やサーバーの整備も必要です。

境界のないデジタル世界における法の整備においては、日本が後れを取りそうな危惧はありますね。また、普及にあたっては、共通の倫理観の浸透も必要です。

——最後に、ミラーワールドの実現に向けて、こんなプレイヤーとコラボしたいという思いはありますか。

ミラーワールドを構築するにあたっては、共創しながら広く社会を巻き込む必要があると考えています。

建築の領域では、例えばデベロッパーやハウスメーカー。デジタル世界でいえば、バーチャルヒューマンを手がけている研究者や企業など。文化・伝統の切り口も実装していきたいです。

個人的には、食や医療との掛け合わせにも興味があります。徐々に、関係を広げながらMeetupの機会をつくっていきたいですね。




有馬 慶凸版印刷 生活産業事業本部 環境デザイン事業部
アート、ヴィジュアルコミュニケーション、建築を専攻。意匠系建築設計事務所を経て凸版印刷に入社。空間設計、プロダクトデザイン、デザインマーケティングに関わりながら、UnrealEngineを活用した空間シミュレーターを開発。現在は、環境デザイン事業部デザイン戦略部に所属し、GEMINI Laboratoryを立ち上げ、ミラーワールドの民主化へやコミュニティ作りをビジネスとして目指す。プロボノとして、宇宙ビジネス創出を支援するSPACETIDEにも参画中。ミラーワールドや宇宙、リアルやデジタルなど、境界が混ざり合った世界に魅力を感じる。

文=出村光世

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