多いのが台湾有事への懸念、それから人権問題も関心の高い分野の一つです。人権問題に関しては、昔からありましたが、いまでも事件が多いですよね。サプライチェーンの人権デューデリジェンス法が成立したドイツを中心としたヨーロッパの人権問題に関するアジェンダ設定には関心が高いと感じます。
──サービス開始の2021年10月以降、どのような変化がありましたか。
おそらく、ウクライナ戦争が一つのマイルストーンになり、風向きが変わったポイントだと思います。また、ウクライナ戦争の開始直後の昨年5月に日本で経済安全保障推進法案が可決されたことも大きいです。その前にも、ドイツでサプライチェーンのデューデリジェンスを義務付ける法案が可決し、米国でも可決しています。昨年10月には、米国で半導体の対中規制が加わりましたし、そういった各国の規制の動きを背景に関心が高まっていると感じます。
3年前から毎月一回、私がモデレーターとして経済安全保障の勉強会をしています。講師は、大学の先生や弁護士、経済安全保障の専門家の先生を招いていますが、最初は参加者が15人ぐらいだったのが、昨年の年末はピークで一時は500人超えまで増えました。現在は200人から300人ぐらい方が参加してきています。調達や資材関係の方、社内に経済安全保障室が立ち上がって、参加してきた方などが多い印象です。
──サプライチェーン解析ソリューションのほかに、株主支配ネットワークの解析もしているそうですが、どのようなものでしょうか。
この画面は、企業の実質的な支配状況を表していて、独自の指標である「Power Index(パワーインデックス)」を用いて中国政府による強い支配力がある企業が一つでも存在する国を赤く表示させています。
代表的な持ち株把握の方法である間接持ち株比率の計算方法では、遠隔からの支配力、つまり株主を複数次たどった先にある企業からの支配力を過小評価してしまう問題がありました。また、 持ち株比率が50%を超える実効的な支配が可能な経路のみをたどるといった方法もありますが、複雑なネットワーク構造を介した実効支配のすべてを探知することは不可能です。Power Indexは、従来の株主支配の状態を把握するこういった方法の欠点を回避するために開発した指標で、見えにくい「実効的な支配」を把握するものです。
例えば、2021年に解析したデータでは、Power Indexで確認すると中国政府が強い実効支配力を持つ企業数は世界で約73,000社確認できました。従来の手法である持ち株比率などを用いて解析すると、中国政府が実行支配力を持つとされる企業は世界で約51,000社となり、Power Indexを用いた場合と比較すると約4割が隠れてしまうことがわかりました。このソリューションを活用することで、さまざまな国と地域の制裁リストに載る懸念組織などが自社や自社と関係のある組織に実効的な支配力を持っているかどうかを確認することができます。
サプライチェーンや実質株主ネットワークなど、複数次に網の目のように広がるつながりを人の手だけで調査をすることには限界がある一方で、世界情勢の変化に伴い多様化するリスクに備える必要性は増しています。テクノロジーをうまく活用することでリスク低減を図ることも企業の選択肢として検討いただきたいと考えています。