生成A Iの主導権を握るのは誰か|サマーダボスリポート4

写真提供/世界経済フォーラム

「恐怖がイノベーションを妨げてはならない」
 
「第14回 世界経済フォーラム ニューチャンピオン年次総会2023」(通称「サマーダボス」)で行われたセッション「Generative AI: Friend or Foe?」(生成AI:敵か味方か?)の席で、スロベニアのデジタル変革大臣エミリヤ・ストイメノヴァ・デュフが述べた言葉だ。
 
どんな技術も、使い方によっては諸刃の剣になり得る。どうすれば、私たちは倫理的配慮と責任を堅持しながら、生成AIが持つ可能性を最大限に活かすことができるのか。
 
同セッションのモデレーターを務めた世界経済フォーラムAI・データ・メタバース部門責任者のキャシー・リーに、生成AIにまつわる疑問を投げかけてみた。
Cathy Li◎世界経済フォーラム AI・データ・メタバース部門責任者。コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得。WPPでさまざまなリーダー職を歴任したのち、WPPのメディア投資部門であるGroupMのパートナーを経て2018年に世界経済フォーラムへ。

Cathy Li◎世界経済フォーラム AI・データ・メタバース部門責任者。コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得。WPPでさまざまなリーダー職を歴任したのち、WPPのメディア投資部門であるGroupMのパートナーを経て2018年に世界経済フォーラムへ。

 日本語に強い生成AIは必要?

──ChatGPTをはじめとする生成AIの可能性と課題をどう捉えていますか。
 
生成AIは、例えば文章を要約したり、インタビューの質問を作ったり、プレスリリースを書いたりするのに使える。だが、それだけではない。特に創薬などの分野では、企業や個人が生成AIを活用し科学的な発見につなげている。生成AIはサプライチェーンからエネルギー、住宅ケア、金融サービスに至るまで、さまざまな面で革命をもたらしうる。
 
だが、課題も多い。まず、(ChatGPTの)トレーニングに使用したデータセットは基本的に2021年9月21日以前のものだ。加えて、私たちはAIのトレーニングにどのようなデータが使われたのかをよく知らない。また、現時点における言語モデルの大半は英語だ。そのため、異なる文化や言語を表現する点においては多くの問題が生じ得る。
 
安全性の問題も明らかだ。悪意のある使い方をするアクターもいることは容易に想像できる。そのほかにも公平性、セキュリティ、プライバシー、著作権など、生成AIから派生する課題は多い。
 
──セッションの後、会場にいた日本人の参加者が私に話しかけてきました。その人は「日本人が生成AIに脅威を感じるのは、日本語に強い生成AIが存在しないからではないか」と言っていました。ここで2つ質問があります。私たちは日本語に強い生成AIを作るべきでしょうか。そして、もし作るなら誰が手がけるべきでしょうか。
 
とても重要な質問だ。というのも、もしあなたが「生成AIは公共インフラであるべきだ」という議論に賛同するとしたら、それは基本的にインターネットのようなものだと言える。つまり、私たちはインターネットを構築しているのであって、世界中に異なるバージョンのインターネットは存在しないよねという話になる。
 
一方で、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の特徴を考えると、この社会には国によってさまざまなニーズや(生成AIを活用する)目的があるため、(特定の生成AIが)主要モデルにはなり得ないと主張することもできる。
 
「誰が作るのか」は、さらにいい質問だ。インターネットの場合は米国国防総省が構築したARPAnet(Advanced Research Projects Agency Network)という分散型のコンピュータネットワークに始まり、後から一般消費者へと利用が拡大した。
 
現時点では、(生成AIの)リソースの大半は業界関係者の手に集中している。だが、生成AIは公共インフラのようなものだと捉えるなら、国家でリソースを蓄え、同等のものを作るという論点ももちろんある。
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文=瀬戸久美子 写真=世界経済フォーラム

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