関連するサービスとして、2015年から日本で初めてAIを使った「特許解析」を開始しています。これはオープンソースのデータを活用して中国やアメリカの特許に関連するリスクや、チャンスとなる情報を企業に提供するものです。
経済安全保障の構想が始まったのは3年前の2020年です。守本正宏社長直属の研究開発室を立ち上げました。その時、現在のようなサプライチェーンを解析するAIの技術と、特許解析のように、オープンソースのデータを掛け合わせて分析するという構想はなんとなくできていました。最初は事業化を目指して、メンバー数人で週に一回のプロジェクトとして始まりました。
当初は、安全保障領域の研究開発が中心で、中国の人民日報や北朝鮮のニュースなどを解析していました。そこから、企業のサプライチェーンの関係性が非常に重要になるだろうということで、安全保障領域のデータ解析から企業のサプライチェーンの解析に舵を切りました。
開発のなかでは、サプライチェーンをいかにイメージとして表すかが苦労しました。最終的には、宇宙に浮かぶ星のように、3次元空間で中心軸の周りにサプライヤーを点で表すという形になりました(図参照)。
取引の規制がされている企業、禁止されている企業は、一覧で表示されます。これに使用している制裁リストは現在29個ほど。経済安全保障でよく使われる米国のSDNリストのほか、カナダのテロリスト情報などが入っています。解析では、国や業種ごとなど、さまざまな角度で見ていきます。
──サービスへの関心度合いは高まっていると感じますか。
このサービスは主に日本で提供しており、米国政府関係者や米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)などにも問い合わせに応じて見せていますが、アメリカでこういうことをやっているところはないと聞いています。もともとが完全にオリジナルなので、独自のサービスになります。そのため、色々な問い合わせが来ます。
2020年の秋ごろには、このように取引関係が可視化できる状態になり、サービスを発表しました。ユーザーは、最初は政府系の官公庁が多く、民間企業はトライアル的にお使いいただいたうえで、ご利用いただいているという形です。業界としてはほぼ製造業です。問い合わせが来るのは、商社や金融機関も増えてきましたが、製造業ほどにはまだリスクがそこまで顕在化していません。
製造業ではすでに、取引が停められて1000億円の損失が出たというようなケースが起きています。そういった事業に与える影響は製造業の方が圧倒的に高いのが理由の一つだと思いますし、もう一つはウクライナ戦争や習近平国家主席の発言などを受けて、台湾有事を見据えたサプライチェーンの見直しをする企業が増えています。危機感のある企業のギアが一段階上がったと感じました。