ジョブ型雇用は時代遅れ
さらにモーレは、これからはジョブ・ディスクリプションではなく「タレント・アンド・マスタリー(才能の習熟の追求)」の時代だと話す。「多くの企業がジョブ・ディスクリプションを採用していますが、はっきり言って職務に100%フィットする人材はいません。私たちが行った大規模なリサーチによると、66%の人々が、普段の仕事で自分の才能を使っていない、と答えています。先進的企業の多くが人々の特定の才能に見合ったかたちで仕事をつくり、彼らの才能の熟達を支援する方向にかじを切っています」(モーレ)
先に紹介したビュートゾルフは、この点でも興味深いパイオニアだとモーレは話す。彼らの小さなチームには「マネジャー」はいない。構成員全員がチームの成功の責任をもつ。しかしマネージャーはいなくても、マネジャーの「役割」は存在する。まず、彼らは成功のために必要な役割を書き出す。例えば、プランニング、採用、コーディネーションなどだ。次に、その役割をやりたいメンバーが引き受ける。誰もいない場合は、分担するか、その役割を得意な人を次に採用する、といった具合だ。働き方に、より人間的な側面や自由度を与える企業は世界で増えている。しかし、目下、「自分の会社は違う」と思うかもしれない。
しかし、モーレは、先進的企業のいくつかの組織改革は、リーダーからではなく、ボトムアップで始まった、と話す。従業員約1700人のオランダのオンライン通販、bol.comでは、1人のロジスティクス担当マネジャーのアイデアから始まった30人のチーム内での試みが、組織全体に広がっていったという。「最も重要なことは、あなたがチームの人たちと話し、何が不満なのか、共有することから始めることだと思います。
組織にとって最善の働き方がどのようなものであるかは、誰にもわかりません。実験をセットアップし、メンバーに何がうまくいくのか、理解できるようにするだけです。これは、ハイアールが常に変革を遂げている理由と同じです」モーレは、世界全体で見れば働き方の変化はまだ小さくとも、近いうちに大きな変化が来るだろう、と話す。
「日本には昨年10月に訪れ、約20年にわたり組織の変革を続けてきたIT決済サービスのネットプロテクションズを初め、多くの先進的企業を訪れましたが、ここ数年で日本で起こっている変化に目を見張りました。これは日本やオランダだけではなく、世界中の課題であり、変化は希望なのです」
コーポレート・レベルズ◎「Make Work More Fun」をミッションに、ピム・デ・モーレ、ヨースト・ミナーによって2016年に共同創業。世界100以上の働き方先進企業を取材、リサーチし、オランダを拠点にオンラインメディアとレクチャーコースを運営している。その膨大なリサーチをまとめた書籍『Corporate Rebels』を2020年に出版。ハーバード・ビジネス・レビュー、ニューヨーク・タイムズ、BBCなどにも取り上げられた。