ハイアールの以後約40年にわたる社内意識改革、組織改革については、モーレとミナーによって執筆された『Corporate Rebels(未邦訳、2020年)』に詳しいが、大きく分けて、張の手によって5つの移行変革が行われた。モーレによれば、張は大変な勉強家で、東西の経営論について勉強しつくしており、ピーター・ドラッカーや「コア・コンピタンス経営」で有名な米国の経営思想家ゲイリー・ハメルを多く引用して話してくれたという。
しかし、5番目の移行変革、2012年に行われた「人単合一2.0」では、それまでの4つの変革期と異なり世界に見習うべき例はなく、「自らがパイオニアになるしかなかった」と張は語った。1万2000の中間管理職を廃止、小さな企業単位をこれまでの倍に増やし、組織の壁を壊し、起業家マインドを奨励する仕組みをつくる大きな改革だった。
社内に資金調達プラットフォームがあり、製品やサービスに責任をもつ社員はそこにアクセスできるほか、人事やマーケティング、財務といった社内のほかのチームとつながり、スケールする仕組みもある。「成功する企業は、特別なことをしているわけではない。しかし、時代に合わせて動いているのだ」というのは、モーレがよく引用する張の言葉だ。「彼に実際に会って感じたのは、彼はほかの多くのCEOとは異なり、リスクを取ってそれぞれの時期に大きな変革をしてきた、ということです。彼らは変化する時代環境に適合しており、多くの企業はそれをしていないというだけなのです」(モーレ)
張瑞敏
1984年、35歳の若さで国有の青島冷蔵庫本工場の工場長に就任。強力なリーダーシップで、赤字続きで破産寸前の会社を世界有数のグローバル家電メーカーに育てた。IoT時代を見据えて2000年代より始まった「人単合一」は、革新的精神をもった従業員とユーザー(顧客)を直接つなげ、価値を生み出すモデル。
ダニエル・エク
2008年にストックホルムで創業され、急成長を遂げた音楽ストリーミングの会社も数々のユニークな試みを行う。会社の約3分の1を占めるエンジニアは、「スクワッド」と呼ばれる少人数のチームに分かれ、自律的に活動する。しかし、従来のヒエラルキー型を好む者はそれも選べる、社員の好みに合わせた組織づくりが特徴。