チーム同士のネットワークが鍵
1万5000人もの看護師を組織するオランダの医療組織ビュートゾルフ(Buurtzorg)の創業者で自身も看護師のヨス・デ・ブロックは、黒のTシャツがトレードマークの謙虚な佇まいで、オランダではよくメディアにも登場し、英雄視されている人物だ。彼がビュートゾルフを創業したのは2006年のこと。きっかけは、在宅ケアの看護師として働いている際の古い非効率な組織形態へのフラストレーションだった。稼働当日に本部から送られてくる書類に書かれた作業内容は、在宅ケアの現場で遭遇する課題やニーズとはかけ離れていることが多かった。そこでブロックは、看護師専門集団による自律分散型の組織をつくった。
管轄地域ごとに10~12人のチームが組織され、仕事のプランニング、実行、採用などすべてをチーム内で行う。本部として管理業務を行うスタッフはたった50人で、上部組織というよりは、本来の業務に関係のない煩雑な事務作業を請け負ってくれる、サポートスタッフだ。
結果、スタッフの意欲や患者の満足度がともに高く、コストも抑えられ、すべてにとってよいかたちでビュートゾルフは急成長した。多くの先進的企業の事例を見てきたモーレとミナーだが、自律分散型組織をつくる際に鍵となるのは、「チーム同士のネットワーク」だという。
「チームのネットワークを構築する際に重要なポイントになるのは、『顧客に近いところから始める』ことだと思います。サービスを提供したい顧客を起点に、チームを小さく分ける。その点、在宅ケアサービスの提供者であるビュートゾルフが最も顧客に近い地域ごとにチームを分けているのは理にかなっています。
製造業で巨大な製造ラインをもっている場合、顧客に届くサービスや製品に近いかたちで分ける必要があります。何よりも重要なのは、働いている人たちが、特定の領域でエンドツーエンドの責任を全うしていること。自身で決断できる多くの権限をもつことです」(モーレ)
20年以上前から自律分散型組織についてはその可能性が追求されてきたが、大企業が挑戦する際に課題になっていたのが、情報の共有だった。多くの場所で多くのことが同時に起こり、それが非効率性につながっていた、とモーレは話す。
「しかし、ここ最近ふたつの理由でその壁はなくなっています。ひとつは環境が常に大きく変化しているため、それに反応し、適合することのほうが重要で、効率性はさほど重要ではなくなっている点。もうひとつはテクノロジーのおかげで情報の共有が飛躍的に便利になっている点です。ビュートゾルフでは、すべてのスタッフが参加必須の独自の社内イントラネットが非常にアクティブに活用されており、ニュースやワークショップの情報などが共有されている。ハイアールでは、ブロックチェーン技術を使ってほかのチームとつながるプラットフォームが構築されています」
ヨス・デ・ブロック
在宅ケア業界の古い労働システムに不満を抱き、自由と信頼、高いレベルの自律性によって運営される組織を目指し、2006年、オランダにてたった4人の看護師でビュートゾルフを創業。地域ごとに分かれた十数人の看護師集団が採用、戦略、企画など自律的にチームを運営。現在は1万5000人もの看護師が所属する。
デビッド・トーマス
1999年に創業されたスペイン、バルセロナを拠点とするデジタルマーケティング会社Cyberclickは、「ハピネス」を軸に組織づくりを行う。才能の習熟は会社と社員のためになると、コストをいとわない方針が特徴。社員は自らトレーニングの予算を決めることができ、サーフィンやシュノーケルのレッスンでもOK。モニタリングもされない。