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2023.06.27 08:45

修羅場をくぐって笑えるか? サントリー社長が語る「人本主義経営」基盤づくり

「運を連れてくるのはトップの力量」

──国内外の社員のエンゲージメントは高まっているか。

新浪:最近の調査では、社員の9割弱がサントリーグループで働くことに誇りをもっていると回答している。

サントリーは創業以来、事業で得た利益は事業への再投資のほか、お客様や取引先へのサービス、社会貢献に役立てる「利益三分主義」を掲げている。例えば、サントリーは行政や森林保有者と協力し、森林保全を行うために各地で「天然水の森」を展開している。ある海外の社員は天然水の森に行き、その取り組みに感激し、帰国後すぐに地元のNPOなどと一緒になって同じような活動を始めた。

こういった類いのことは、やれと言ってやれるものではない。サントリー大学を通じて現場を訪れ、サントリーの「水と生きる」という社会との約束と「やってみなはれ」の意味を体感した結果だろう。こういうことをやっていいのだと思った瞬間、解き放たれた。

自分たちのコミュニティを守り、水という大切な地球資源を次の世代に渡していくという意識を強くもち、ロングタームでコミュニティにコミットする。その結果、我々が社会になくてはならない存在となる。そんな海外の社員の姿勢が、日本にいる社員にも前向きなピアプレッシャーを与えている。

──日本国内における人材面での課題はなにか。

新浪:とりわけ20代、30代の人たちは、自身のキャリアへの関心が高いと感じる。その理由のひとつは、サントリー以外の企業でも面白そうな仕事ができるチャンスが増えていることだ。このままではやりたい仕事に到達するまで時間がかかりそうだという現実に、若手社員は直面しているように思う。これからは、優秀な若い人たちを積極的に抜てきしていかなくてはいけない。

さらに、若いうちに修羅場を経験する機会を増やすことが重要だと考えている。例えば、「自分が採用されるポジションを探してこい」と言って、トレーニーとして1〜2年、海外に送り出す。そのときは「なんでこんなことを」と思ったとしても、悩み苦しんだ経験は、その後の仕事やキャリアの役に立つ。

ウイスキーは、仕込みにかかる時間がとても長い。先々を考えて仕込んでも将来、売れるかどうかはわからない。私の次の社長、ひょっとしたらその次の人が「売れてよかった」と思うのか、それとも頭を抱えるのか。このような商売で将来をマネジメントするには、運も重要な要素のひとつだ。そして、運を連れてくるのはトップの力量である。

──サントリーは「おもろい」会社だと思うか。

新浪:おもろい会社だが、もっとおもろくならないと駄目だ。そのためには、社員にちょっときつい経験をしてもらう環境を整えなくてはいけない。修羅場をくぐってもニコッとしている。そんな社員たちがいればサントリーは前例主義に陥ることなく、永遠におもろい会社になれる。


にいなみ・たけし◎ハーバード大学経営大学院でMBA取得。三菱商事、ローソン社長を経て14年より現職。経済財政諮問会議議員。世界経済フォーラムInternational Business Councilメンバー。外交問題評議会(米国)Global Board of Advisorsメンバー。The Business Council(米国)メンバー。

文=瀬戸久美子 写真=大中 啓

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