アート

2023.06.15 09:00

ミラノデザインウィーク、「ヤマハ」の展示が秀逸だった理由

鈴木 奈央
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思えば、日本の茶道では、お茶の淹れ方、茶道具の選び方などに見立ての美学が活躍してきましたね。とりたてて仰々しいものはないシンプルなセレモニー空間のなかで、一服のお茶を通じて季節の移り変わりを感じさせる贅沢、そのことじたいがきわめて知的な営為であったことにあらためて気づきます。

堀畑さんはまた、「無地の美」という美意識も極めて日本的な感性として指摘しました。装飾も模様もない無地の陶器や漆器が、年月の経過とともにひび割れていったり変色したりすることで、風合いを深めていく、そのプロセスじたいを美しいとする感性です。これなども、シンプルさとサステナビリティを無理なく同居させた美しさという見方をすることが可能です。

個々の完璧な姿や永遠性といった決定版を追求するよりもむしろ、自然の摂理や時の流れといった全体性を視野に入れながら、変化していくものを楽しみつつ美しいねと味わう、そんな感覚もどこか新時代にふさわしいように見えます。
Getty Images

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「サステナビリティ」を打ち出すことそのものが目的となって、リサイクル素材を使って複雑な領域に行ってしまっているファッションを見ると、グリーンウォッシュというよりグリーン・コンプリケーションと呼びたくなることがあります。

日本の古くからの美意識は、ことさら新しいものの購入や制作に走らずとも、想像力を駆使することでサステナビリティのある美しさは今ここで実現できますよ、と教えてくれます。その教えの知的なあたたかさは、ヤマハのコピーに呼応するならば、”We Are Here”という感覚に近いですね。

文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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