日本の「衰退産業」を守れ。新たな市場はどこにある?

(左から)中川政七、岩本涼

江戸時代に創業した中川政七商店は、2002年に家業に入った13代 中川政七が、工芸分野の卸主体だった事業をSPAに転換したことで大きく成長した。

その中で工芸品を製造する事業者の相次ぐ廃業を目の当たりにし、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げて事業者の経営再生コンサルティングや流通支援も手掛けてきた。

今年5月には、TeaRoom代表取締役CEOの岩本涼が社外取締役に就任。お茶の生産・研究開発から販売まで行うスタートアップであるTeaRoomは、ミッションに「お茶で、日本文化の価値を世界へ証明する。」を掲げている。

「日本の伝統や文化を継承する」という共通点のある両社だが、現在の日本にはどのような課題を感じているのだろうか。

要因は「経営してこなかった」こと

——お二人は「衰退産業」と呼ばれる伝統工芸やお茶文化を継承すべく、事業を展開してきました。現在はどのような課題がありますか。

中川:コロナ禍を経て、工芸の産地出荷額はピーク時の6分の1〜7分の1にまで落ちています。中川政七商店も20年近くがんばってきましたが、まだまだ業界の衰退は止まりません。ビジョンへの達成度を登山に例えると、今はまだ2合目に届くかどうかといった段階です。

なぜかというと、多くの企業に「経営の視点」がないから。本来高い価値を持つものが、その価値を発揮できずに廃れて終わっているのです。

中川政七

工芸の業界で僕が一番嫌なのが「つくれない」という言い訳です。職人を育てればつくれるものを「つくれない」と言うのは、10年先のことを考えて職人を育ててこなかったからです。

当たり前のことですが、経営は1カ月先のことも10年先のことも考えてやっていかなければいけません。そのような経営視点を持てば、工芸の業界もきちんと続いていくし、喜んでくれる人が増えます。

中川政七商店は、自分たちの経営再生の経験をもとに、こうした工芸の現場に経営視点を持ち込むノウハウを明確に持っています。ですので、僕らがお手伝いしたところは確実に良くなっています。

ただ、工芸の衰退は加速しているので、現状の延長線上の活動を続けているだけでは変わりません。相当な馬力で延長線上ではない場所に行かなければと思っています。非連続な成長のようなものを思い描いてやっていくしかないわけです。それは非常に手間がかかりますし責任も大きいので、その覚悟をこの秋ぐらいに宣言しようと思っています。
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文=久野照美 取材・編集=田中友梨 撮影=山田大輔 場所提供:三菱地所株式会社

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