自分の成熟を待つ必要はない
「Future Lions」の話で登場したペルー人の青年は、僕が直接指導したわけでもないし一緒に仕事をしたわけでもないが、僕が新設した賞で入賞したことが、彼の人生を大きく変えることになった。僕は、彼の人生に間接的に影響を与えられたといえるだろう。日本では「人に影響を与えることは、自分が何かを成してから考えること」という風潮があるように感じる。しかし人に影響を与えられるのは、成功を収めた人だけではない。自分自身が成長の途上にあったとしても、特別に何かを成し遂げた後でなくても、誰かに影響を与えることはできる。実際僕が「Future Lions」を開催していた30代のころも、何かを成し遂げたなんて思っていなかった。
誰かにチャンスを与えることや影響を与えることについて、自分自身の成熟やタイミングを待っている必要はない。とくにSNSが普及した現代は、誰もがメディアになれる時代で、世界に発信することができ、いい意味でも悪い意味でも個人の影響力が増大している。
ただし、自分が今すぐに世界を変えられると勘違いしてはいけない。そうではなく、自分が信念をもって行動することで、少しずつしかし確実に社会や世界が変わっていくのだと知っいてほしい。
さいごに
この連載では、キャリアを5つのステップで考えてきた。1. 最初に備える「自立」 (Independence)
2. 若いうちに培う「技巧」(Craftsmanship)
3. 実践を通して学ぶ「戦略」(Strategy)
4. 行動で示す「牽引」 (Leadership)
5. 社会に貢献する「影響」 (Influence)
「10000時間の法則」があるように、一つのことを身につけるにはある程度時間がかかる。しかし実際に10000時間が必要になるかは人それぞれだ。短くてすむ人もいれば、長くかかる人もいるだろう。振り返ってみて初めて意識することではあるが、僕自身は10代の頃から、約10年ずつのスパンでこのステップを積んできた。
ここ数年、ChatGPTやMidjourneyといったAIの技術の進歩が著しい。こうした技術をいかに使いこなすかによっても、キャリアの積み方がスピード感にはこれまで以上に個人差が出てくるだろう。しかしこの5つのステップは、比較的普遍的なものであると信じている。この連載が読者の方々のキャリアのあり方にとって、何かのお役に立てばとても嬉しく思う。