僕自身がしたことは、クリエイティブコンペを新設するというそれだけのことだったけれど、彼らにとっては大きな世界に羽ばたくきっかけになった。
「世界に興味がない」と言い切る日本の若者
「Future Lions」を新設した2012年、日本からの応募はゼロだった。前年に東日本大震災という大きな災害があり大変な時期だったとは思うが、それでもゼロという事実にはショックを受けた。ちょうどその頃に日本出張が入ったので、日本の学生と話す機会を作り「Future Lions」に応募しなかった理由を聞いてみた。そこで知った学生からの答えは、悪い意味で衝撃的だった。
そもそも彼らは「Future Lions」を知らなかったのだが、こうした趣旨の賞に応募しないのかとたずねると「海外には興味がないので」という答えが返ってきたのだ。16歳で日本を出た僕は、20歳そこそこの若者が「世界に興味がない」と言い切ってしまうことに愕然とした。
この出来事をきっかけに、僕は日本で毎年学生を対象にクリエイティブワークショップを開催することを決めた。「Future Lions」を新設したときのように、少しでも日本の若者に影響を与えようと考えたからだ。ワークショップは自転車で例えるなら補助輪のような存在で、あくまでも彼ら自身が自転車をこげるようになるきっかけにしかならない。それでも日本から世界に挑戦する若者が少しでも増えればと思って始めた。
海外に出ることは、日本を捨てることではない
もっと世界に興味をもってほしいと僕が思うのは、決して海外が日本より優れていると考えているからではない。まして「海外に出ること=日本を捨てること」だとも思っていない。むしろ海外に出ることの意味は、自分の国や自分自身を客観的に見つめ直せる点にある。海外に出なければ、自分の国や自分が世界でどのような立ち位置にあるのか、分かりようがない。
僕のポッドキャスト番組「世界のクリエイティブ思考」にゲスト出演してくれたJohn Jay(ジョン・ジェイ)は、対談の中で1980年代のソニーの勢いを印象深く語ってくれた。日本を代表する企業ソニーの、「It's a Sony」というキャッチコピー。「ソニーなんだ」というこのシンプルなキャッチコピーからは、自社製品への自信がありありと伝わってくるし、その一言で自信を最大限に伝えるクリエイティビティも素晴らしかった。
当時の社長だった盛田昭夫氏は、海外でのビジネスを拡張するために自ら渡米していたそうだ。夫婦でニューヨークに暮らし、地元に溶け込むために社交ダンスをしていたエピソードもジョン・ジェイが紹介してくれた。盛田氏がそれから日本に戻り、ソニーの更なる成長とを牽引したのは多くの人が知るところだろう。