主人公は市役所で働く定年間近の「市民課長」。ことなかれ主義の中で毎日を過ごしている彼が、あることをきっかけに市民公園をつくる、というストーリーだ。
黒澤明監督作品を代表するすばらしい映画で、役人の習性やセクショナリズムが黒澤監督らしい絶妙な語り口で表現されている。筆者も元役人なので、苦笑いするシーンがいくつもあった。
この名画が、英国を舞台としリメイクされたことで話題になっている。2022年のイギリス映画『生きる LIVING』だ。監督をオリヴァー・ハーマナス、脚本をカズオ・イシグロが務めた。
この映画で描かれたような、時間と手数がかかり融通のきかない「お役所仕事」は、今や通用しない。すでに多くの自治体で改善が進んでいるが、中でも「人的資本」に注目し取り組みを行うのが福井県鯖江市だ。
今回は、筆者が実行委員長を務める「未来まちづくりフォーラム第5回」(2月)にも登壇いただいた、鯖江市長の佐々木勝久氏にインタビューを行った。
未来まちづくりフォーラムで佐々木市長と筆者
だれ一人取り残さない
鯖江市といえば、メガネの生産量が全国一位のまち。佐々木市長は、笑顔があふれる「めがねのまちさばえ」を目指しているという。「笑顔があふれるまちは、誰もが過ごしやすく働きやすい、活気があり夢も希望も持て、人々が集まってくる地域社会です。つまり“人が集い・輝き・挑戦するまち”をつくりたいと考えています」
「人が集い・輝き・挑戦するまち」とはなにか。同市のホームページの「市長の部屋」によると、次のような意味がある。
人 =一人一人に寄り添う、誰一人取り残さないこと
集う=交流人口や関係人口が増え、既存コミュニティが活性化すること
輝く=多種多様な人が、それぞれの個性を生かしながらいきいきと活躍できること
挑戦=市民・団体・企業が挑戦を楽しみ、挑戦した結果の成功体験が充実感と自信を生むこと
2019年に内閣府からSDGs未来都市に選ばれた鯖江市は、SDGsを市政に反映し、「だれ一人取り残さない」という包摂性を軸に、多様性、挑戦といったSDGsの理念を凝縮させたまちづくりをしているのだ。