国内最大の有毒廃棄物の不法投棄事件の後の、島をきれいにするための何十年にもわたる苦闘はいま、大詰めを迎えている。政府は、主に税金を財源とする820億円を投じて、22年に汚染地下水の浄化作業を完了させる見込みだ。まるで福武自身の慈善事業に合わせるかのように。
現在、豊島には福武財団にとって最も貴重な資産のひとつである豊島美術館がある。プリツカー賞受賞者の建築家の西沢立衛とアーティストの内藤礼による水滴の形を模した白いコンクリートの建造礼による水滴の形を模した白いコンクリートの建造物で、同時にアートインスタレーションでもある。
福武の最大の願いは、福武財団の美術館がほかの地域の再生の「媒介役になること」だという。福武は1990年代初頭に最初のアート展示場を開設したが、彼に瀬戸内国際芸術祭のアイデアの種を植え付けたのは、2003年に訪れた北日本のある芸術祭だった。それから7年かけて、福武と福武財団は地方自治体や国と協力し、芸術祭の計画を打ち出し、タウンミーティングを開いて支持を獲得していった。
第1回瀬戸内国際芸術祭は、豊島美術館の開館と同じ年の10年に開催された。福武によると、25年の芸術祭に向けた一家の事業には、アジアのアーティストを中心に取り上げる3階建ての建物を直島に建設する事業や、豊島にある廃校になった中学校をギャラリーに改造する事業などがある。
英明は、財団が資金調達や職員の育成、独立性の堅持を通じて持続可能であり続けていくことが、ひとつの重要な課題だと語る。福武家が長期的な話をするときは、数十年単位で考えていることを意味する。
「私たちにも投資対効果目標はあります。ただ、それは四半期単位や1年単位、3年単位で評価されるものではありません。私の息子が投資を回収できれば、それでいいのです」
そう語る英明も、彼なりのジレンマに直面している。自身が財団の指揮を執るようになれば、自分の印をつけたくなる誘惑をかわす必要も出てくる。彼はこう話す。
「私は物事を変えたくなる性格なので、葛藤はあります。ですから、物事をほんの少し変えて進化していくことが重要になるでしょう」
福武總一郎 福武財団名誉理事長、ベネッセホールディングス名誉顧問