オンライン展覧会は、美術館に足を運ばなくても名作を鑑賞できる機会だ。手頃で利用しやすいため、人気が高まるのも無理はない。コロナ禍で美術館が閉鎖され、人々が自宅に閉じこもったまま楽しめる娯楽を求めたことで、バーチャル展覧会は一気に普及した。ロックダウンが明けて再開館した後もオンライン展示を続ける判断をした美術館もある。
ただ、オンライン美術鑑賞そのものは2020年以前からすでにあった。複数の美術館がGoogle Arts & Culture(グーグル・アーツ・アンド・カルチャー)と協力し、より多くの人に美術鑑賞の機会を届けようとしていた。グーグルが2011年に立ち上げたこのプラットフォームでは、今や数千もの美術館や美術資料館の所蔵品が紹介されている。
オンラインで美術を鑑賞する人が増えるにつれ、その体験が実際に美術館を訪れたときのそれに匹敵するのかという疑問を抱く研究者が出てきた。これまでの複数の研究で、美術館に足を運ぶと血圧やコルチゾールの値が下がり、全体として心の健康や幸福感が増すことが示唆されている。オンライン展覧会でも、同じ効果は得られるのだろうか。
実際、バーチャル美術館でも幸福感が高まるとする幾つかのエビデンスがある。しかし、非常に新しい研究分野なため、解明すべきことがまだたくさん残っている。そこで、マックス・プランク経験美学研究所(MPI for Empirical Aesthetics)のチームは、バーチャル美術鑑賞の体験が誰にとっても同じか、それともオンラインアートへの反応には個人差があるのかを調べる研究を最近行った。
オーストリア・ウィーン大学の学生200人を招待し、モネの名画『睡蓮の池』の見どころを英ロンドンのナショナル・ギャラリーが解説するインタラクティブなオンラインアート展示を数分かけて鑑賞してもらった。参加者は『睡蓮の池』を鑑賞する前と後に、オンライン展示についての反応を尋ねるアンケートに回答した。
この研究では、オンライン展示でインタラクティブな体験をした人は全体として気分が向上することが確認された。これは、過去の研究結果と一致する。一方、オンラインアートをどのように鑑賞したかという体験には個人差があることも判明した。美術全般に高い反応を示す人ほど、オンライン美術鑑賞の効能は際立って高かった。
また、作品をスマートフォンの画面で見るか、より大きなパソコンやノートパソコンの画面で見るによっても違いがあった。スマートフォンで鑑賞した人は、全体的に改善効果が低かったと報告されている。
オンライン展示を行う美術館にとって、オンラインアートに触れる体験は誰にとっても同じわけではないと知っておくのは有益だろう。また、美術鑑賞に興味があっても実際に美術館に行くのが難しい人は、バーチャル展覧会を覗くだけでもある程度の幸福感を得られると知っておいて損はない。
(forbes.com 原文)