「デジタルの技術ってサービスが止まると、データもすべて消えちゃうんですよ。僕たちは、『デジタルアーカイブを後世に残したい』という思想が根底にあるので、変な話、僕らの会社が潰れてもデータは残さなければならないと考えていて。もちろんクラウドサービスを使わないといけないという制約はありますが、もし使えなくなっても簡単に移管できるようにデータベースも整備しています」
特にGISの分野は「デジタル公共財」としての側面が強いため、企業に依存するべきではないというのが田村の主張だ。もしGoogleが潰れた場合、サービス自体がなくなってしまう恐れがあるが、WordPressがなくなっても、WordPressを使っているWebサイトや会社がなくなることはない。そういった意味で、GoogleよりWordPressの方が公共性があり、秀逸なビジネスモデルだと田村は考えている。
「これからどんな天変地異があるか分かりませんが、いざ何かが起きても『技術と思想は残す』ことが重要。オープンソースであることは、法人としてはリスクと捉えられることもありますが、人類や社会の存続という意味においては、すごくレジリエンスな状態が作れます」
難民やシングルマザーとともに
事業の公共性という点にこだわる田村の眼差しは、人材戦略にも向けられている。「僕らのサービスを世界のありとあらゆる人たちに使ってもらいたい。その議論を重ねるなかで、世界で最も過酷な状況にある人として考え至ったのが難民の方々でした。一緒に仕事をすることができれば、それが将来的に国の復興などに役立てられるのではないかと考えたんです」
思い立ったが吉日。田村はすぐにレバノンやトルコの難民キャンプを訪れた。現地で500人ほどの難民と面会していく中で、シリア人のエンジニアと知り合うことになり、そのままリモートで働いてもらうことになった。
「僕らは今のところ国からお金を頂いて仕事をしているので、自分たちの利益だけを考えるのではなく、公に役立つことにお金を循環していきたいという想いがあります」
Re:Earthは他にも、大阪のある自治体が持っている紙ベースの情報をデータ化する作業を、シングルマザーに担当してもらうプロジェクトも行なっている。社会的弱者に新しい雇用を創出するのも、ユーカリヤならではの社会的価値の出し方だ。