この実験の目的は、来年打ち上げ予定の木造人工衛星「LignoSat」(リグノサット)に使用する木材の選定です。ヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの3種類を宇宙空間にさらし、劣化の状態を見ました。宇宙は温度変化が非常に激しく、宇宙線も地上よりはるかに強力なきわめて過酷な環境ですが、そこに長時間置かれた木材は、反り、割れ、はがれ、表面摩耗がまったく見られず安定していました。また、宇宙放射線や原子状酸素(酸素分子が太陽の紫外線で分解したもの)の衝突による化学変化や分解が心配されていましたが、その影響も見られませんでした。これはまったく予想外のことです。3種類の間の違いもほとんどなかったため、なかでも加工がしやすいホオノキがLignoSatの第一候補となりました。
木材は加工が簡単なため人工衛星を作る際の二酸化炭素排出の量を削減できるばかりか、役割を終え大気圏に突入して燃え尽きるときも、アルミニウムなどの金属と違って有害物質を発しません。また、電磁波や磁気を通すため、金属製衛星ではアンテナなどを外部に取り付ける必要がありますが、木造人工衛星ならすべて内部に収めることができて小型化が可能です。もちろん、ホオノキは日本国内に普通に生えている樹木であり、木材も安価です。このように木造人工衛星のメリットは大変に大きく、期待が寄せられています。
さらに宇宙木材プロジェクトは、月や火星で樹木を育て、木材を建築に利用する計画も立てています。宇宙で樹木が育成できれば、水や空気など人が快適に暮らすための環境作りにも役立ち、同時に建築資材の現地調達も可能になります。京都大学では宇宙で樹木を育てる研究を進めており、住友林業は、火星での樹木の育成を目指す「宇宙植林」も計画しています。今回の実験で、宇宙環境における木材の優れた性能が証明され、宇宙での木材利用が現実として見えてきました。
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