宮崎:若いときは全然共感できなかったのですが、視野が広がって冷静にいろんなことを見られるようになると、同じ志向性を持ち同じようにがんばれる人が集まっているよりも、田中や小林のような変わり種がチームに交じっているほうが面白いと感じるようになりました。仕事はフワフワとしつつも、仲間が困ったときには助けてくれる。そのバランスがおもしろく、そこまで真剣に仕事に向き合っていない感じも、彼の「生き様」なんだなあと。彼のお気に入りのセリフで「本当においしいお店は実は教えないんだ」というものがあります。彼は仕事を第一にしていない。自分の快楽が一番最初に来る。それを素直に表せるのも、それはそれですごいなと思います。
同じ仕事・職種に向き合っているにもかかわらず、仕事に対する考え方と向き合い方がみな全然違っている。それには仕事だけでなく、生き方が色濃く反映されている。「仕事に向き合うこと、それが人生そのものを表わしているんだな」と感じさせられるシーンです。
栗俣:全員が何かしらの目的があって働いていて、そこが全部同じ方向じゃない。2000年初期に描かれていたにもかかわらず、現在のような仕事や働き方の多様化に対してもアプローチしている。そこが『働きマン』のすごいところですよね。
宮崎:そうですね。多様な働き方、生き方、仕事への向き合い方が記憶にずっと残っています。仕事で得た知見には、その人の生き方が反映されている。どう生きてきたかがその人の知見になっている。ビザスクに登録しているアドバイザーの方々も自分の知見でマッチングするととても感動してくださる。自分の知見を求められていることに感動して、たまにお礼に、と会社に菓子折りを送ってくださる方も。仕事の成果を褒められるよりも、仕事を通して得た知見、つまり自分のすごいコアな部分、自分自身の存在自体を褒められて必要とされているといった感覚になるんだろうなと思います。
栗俣:『働きマン』ではそれぞれみな違う目的があって、仕事をしているんだけれども、それが結果として『働きマン』という作品として存在し、ひとつの形になっている。これは宮崎さんのいまの仕事にマッチしていますね。
宮崎:はい、前職もずっと仕事のことを仕事にしていたんですけど、仕事に向き合えば向き合うほど、多様な働き方とかそこから得られてきた知見が埋もれてしまっているよなと。「『働きマン』のあの人みたいな人だな」とか「こういう正義があるんだろうな」とかの気づきが、いまの仕事とつながっている部分です。
栗俣:『働きマン』の中では浮いている話がいくつかあります。ラーメン好きな小林の話もそうですし、書店営業の千葉真の話もそうです。
宮崎:仕事に対してがんばる気力をなくして、心を閉ざしている。これはすごく日常で起きていると思うんですよ。意気揚々と働き始めたのに、挫折を経験するうち「がんばっても報われない」と必死さを失ってしまう。前職のリクルートでの労働者の意識調査では「いまやっている仕事に納得していない」と答えた正社員が半数を超えていました。「不本意非正規」と呼ばれるアルバイトやパートなどの非正規労働者のほうが、実は正社員よりも仕事への納得率が高かったのです。「やってもしょうがない」とか「がんばったことが報われない」みたいなことが積み上がっていって、自分が傷つかないように、心地良い状態を壊さない状態で働いていくことは、多くの働いている日本人に当てはまることでないかなと思います。