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2023.04.18

新卒3年以内に3割が離職、Z世代+の不安と「ゆるい職場」

『ゆるい職場』-若者の不安の知られざる理由(古屋星斗著、中公新書ラクレ刊)

4月に入り、多くの職場で新人社員を迎えていることと思う。

──『ゆるい職場』-若者の不安の知られざる理由(古屋星斗著、中公新書ラクレ刊)が売れている。

タイトルを見て「昭和世代による『嘆きの書』」だと思ったら大間違いだった。著者自身も2011年の新卒入社であり、その眼から見ても「職場が明らかに変容している」ことを捉えているのが本書だ。

「ゆるい職場」は、期間を経て醸成されたのではなく、登場した、とほぼ断言している点が、新鮮で衝撃だ。著者はその登場を「グレートリセット」と称する。

大手企業の新卒3年未満の離職、2017年は26.5%に


前半で提示されている定量的なデータには驚くものが多い。例えば、大手企業の早期離職率(新卒3年未満の離職)は、2009年の20.5%から、2017年は26.5%にまで上昇している(ちなみに「大手」の条件を外すと、3年後離職率は平均30%以上で以前から高かった。厚労省データ)。

若者雇用促進法の施行や、働き方改革による労働時間の制限により労働環境は改善しているのに、なぜ早期離職が増えるのか。

本書では、事実関係の確認に加え、データと定性的なインタビューを交えてその事由を明らかにしようとしている。

「この会社でしかメシを喰えなくなる」不安


著者は離職の理由が「不満」ではなく、「この会社でしかメシを喰えなくなる」という「不安」に変異している点や、学生時代のインターンの経験が当たり前になり「入社前の社会的経験」が影響している点なども指摘する。

情報過多による「ありのままで」症候群や「なにかになりたい」自分の存在認識や、職場における年長者のロールモデルの不在、喪失。インターネット、SNSの登場、失われた30年など、思考を巡らせると、複合的要素が交じりあってくる。

そして、「2つの最大の難問」として

1.成長意欲が高く、社外活動を積極的に行う若者は自社へのロイヤルティ(Loyalty)が高い一方、離職率にも正の相関がある(上昇傾向がある)こと。

2.成長実感において、仕事の質的負荷は重要な要素であり、質的負荷と関係負荷(理不尽さ等)にも正の相関が存在する。一方で、時代はパワハラ防止法に代表されるように、関係負荷の逓減を求め、結果的に質的負荷と関係負荷の切り離しを要請していること。

を挙げ、いくつかの解決策を提示している。

本書ではインタビュー対象が大手企業の新入社員である点に断り書きを入れているが、中小企業やスタートアップでも十分に一般化し得る内容であると思う。

『マネジメント』。英語の"management"の語源を調べると、イタリア語で「馬を馴らす」ことを意味する"maneggiare"(マネジャーレ)に起源とするそうだ。(もり・ひろし&三省堂編修所, WORD-WISE WEB)一般的には「管理」や「経営」といった意味で使われることが多い『マネジメント』だが、「ゆるい職場」の登場によって「馴らす」意味が強まり、そして、もう一つの用法である「なんとかする」ことが、Z世代をも導くこれからのマネージャー陣に強く求められてくるような気がしてならない。

『ゆるい職場─若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗著、中央公論新社刊)

ゆるい職場─若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗著、中央公論新社刊)



曽根康司(そね こうじ)◎EXIDEA取締役/CPO(Chief Product Officer)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。時計店経営・バイヤーからインターネット業界に飛び込む。アマゾンジャパン、ヤフー、キャリアインデックスを経て、2022年7月よりEXIDEAに参画。本稿含め、Forbes JAPANへの寄稿も多数。「焼肉探究集団ヤキニクエスト」メンバーでもあり、全国数百件の焼肉店を食べ歩き、時折メディアにも出演。

文=曽根康司 編集=石井節子

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