政治

2023.04.29 14:00

トルコ大統領選挙、エルドアン時代の終わりとなるのか

安井克至
2043

政敵ケマル・クルチダルオール

現職のエルドアン大統領に対抗するのは、2010年から共和人民党の党首を務めるベテラン政治家ケマル・クルチダルオールだ。経済学者で公務員という経歴を持ち、一般的には温厚な性格とされているが、ここ数週間は閣僚の執務室前でデモを率いるなどしている。

こうしたデモは、5万人の死者を出した震災に対する政治の対応により、個人負担金が引き上げられたことも一因となっている。ギリシャ北東部で死者を出した列車脱線事故と同様、トルコの地震による死傷者数は、手抜き工事や国家機関による被災者支援の不履行といった汚職の結果、膨らんだものだと認識されている。

制度の弱体化が債券市場や為替市場に与える負の影響を説明する際、筆者はいつもトルコを引き合いに出す(例えば、エルドアン大統領の一族や側近が国庫や中央銀行を支配している)。この点で、同国は国家の興亡を語る上で際立った物語となるのだ。2000年代初頭、当時のケマル・デルビシュ財務相が自国の金融制度を立て直し、欧州連合(EU)加盟の見通しが立った頃から、トルコは大きく躍進した。ところが最近は、政策立案や制度の質、法の支配が低下し、発展が止まっている。

皮肉なことに、制度の質の重要性と市民の倫理感の必要性を説く権威は、ジェイムズ・ロビンソンと『国家はなぜ衰退するのか』を著したダロン・アセモグルだ。アセモグルはダニ・ロドリックと同じく、世界有数のトルコ人経済学者だ。2人とも自国が歩んできた道を嘆きつつも、再び軌道に乗せるための政策について明確な答えを持っているに違いない。

選挙に話を戻すと、エルドアン大統領は「仮病を使って」選挙運動を中止しているが、これについて内部関係者の中には、同情票を集めるための試みだとみる向きもある。(訳注:エルドアン大統領は今月下旬、体調不良を理由に一連の大統領選挙関連行事を欠席している。)筆者の見立てでは、選挙の第1回投票が接戦になった場合、エルドアン大統領は完全なポピュリストとなり、軍や外部勢力による陰謀や不正投票の可能性を主張するという切り札を使うことになるだろう。エルドアン政権に反対する発言をしたために投獄されたイスタンブールのエクレム・イマモール市長の運命は、エルドアン大統領が自らの地位を守るためにどこまで用意周到なのかを示すものだ。選挙結果は、同大統領の猛攻撃に直面した野党の結束力にも大きく左右されることとなる。

エルドアン大統領が敗北すれば、新興市場やウクライナ、中東全体に影響がおよぶだろう。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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