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2023.05.02 10:30

「報道特集」キャスターが取材後に聞かされた長渕剛『カモメ』の意味

「原発事故が起こると元に戻らない」福島から伝えたいこと

小林さんは、ロシアが原発を攻撃の対象としていることについて怒りを滲ませます。

「何をするのロシアって。ひとたび原発事故が起こると元に戻らなくなる」。

原発事故によって避難を強いられることは、自然災害などとはまた違うものだと小林さんは語ります。家や物が壊れたり傷んだりしたら、まだ作りなおす余地があるかもしれないけれど、その土地から人がいなくなるのは「全滅に近い」「絆が切れる」ことだと。

「みんなの絆が切れて、人との繋がり、生活がなくなり、築いてきたものが目に見えなくなる。そういうものを伝えることもできなくなって、帰れないような状況になってしまったことは、それは決してお金では償えないものだと思う」

取材後、教えてもらった曲には…「全滅」という言葉も

インタビュー後のカメラが回っていない時に、小林さんが長渕剛さんの『カモメ』という曲を私に教えてくれました。原発事故後、悲しみや怒りの気持ちを抱いたまま車を走らせていた時によく聞いていたそうです。「(曲が収録された)アルバムジャケット写真がかっこいいのよ」とだけその時は言っていましたが、後にどんな曲か聞いてみると、長渕さんが福島県浪江町を訪ねて感じたことを題材にした曲でした。歌詞は、生活のまわりの物や音、全てが消えてしまったという描写が続きますが、私がハッとさせられたのは、小林さんの言っていた「全滅」という言葉が入っていた部分です。

避難指示が解除されて福島に戻った自身の経験と、その時の思いが、この曲と重なりあう部分が多くあったのかもしれません。

小林さんが福島で旅館を続ける“2つの思い”

小林さんが旅館を営む福島県南相馬市の小高区は、震災前と比べ、戻ってきた人は3割ほど(令和5年3月31日現在)。ただ、お墓参りなどで帰ってきた人たちの泊まれる場所、戻ってきた人たちの集まれる場所を作りたいと、今も旅館を続けています。

もう一つは、自分たちの姿を通してウクライナの人々を励ますことです。小林さんは「ネバーギブアップ、決して未来がないわけじゃない、自分たちもここまで来たよっていうことを知らせたい」と力強く話していました。小林さんは今でも義援金を集めるイベントを開催し続けていて、チェルノブイリ原発事故から37年の日を前に、福島の子どもたちからの応援の手紙も送ったそうです。現地の支援者は、小林さんについてこう語ります。

「問題に負けている女性ではなく問題を解決しようとしている女性だ。私たちも強く頑張ります」



侵攻が始まってから1年以上が経ち、日本国内でのウクライナへの関心もだんだんと薄れてきてしまったように感じます。お金や物を送るだけが支援だけではありません。関心を持ち続け、応援しているという意思表示だけでも、長引く戦争で心に傷を負ったウクライナの人々の心の支えになるはずです。現地を取材するのはなかなか叶わないかもしれませんが、私自身もこれからもウクライナ侵攻の事を伝えられるよう、取材を続けていきたいです。

文=上村彩子 編集=石井節子

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