──ニューヨークに次いで東京でDAOに特化したカンファレンスを開催した理由は。
亀井聡彦(以下、亀井):世界各国で起きているDAO関連のムーブメントを追いかけるなかで、DAOに対する日本の理解と世界の最先端の人たちの認識との間にズレがあると気づいた。このズレを解消することが、DAO TOKYOを開催した最大の理由だ。
──「認識のズレ」とは。
亀井:日本はDAOが登場する前からオンラインサロンが人気だったこともあり、DAOをサロンのようなコミュニティとして捉えている人が多い。だが、DAOにはブロックチェーンを使った資産管理をはじめ、サロンとは明確な違いがある。今のうちにDAOに対する認識のギャップを埋めて、日本やアジアからグローバルのDAOに貢献する人を増やしたいと考えた。
鈴木: そもそも、日本にはDAOに触れたことがある人が少ない。経験値がないなか、机上の空論に基づいてプロジェクトをスタートしている人や組織が多く、世界各国にいるDAOの経験者と同じ轍を踏んでいると感じる。だからこそ、DAOの最先端で活躍している人たちの知見をシェアすることは、DAOに対する日本人の理解や貢献度を高めるのに役立つ。
──「DAOは人々の仕事や働き方を変えるのでは」と期待する声もある。具体的に、どのような可能性を秘めているのか。
赤澤:働き方という観点では、日本ではフリーランスや個人事業主、副業などに次いで、働き方の究極形態になる可能性を秘めている。
例えばエンジニアの場合、従来からオープンソース型のプロダクト開発の動きはあった。DAOが登場したことで、コミュニティに貢献するとブロックチェーン上から報酬(トークン)を得られるようになり、仕事として確立しやすくなった。
もちろん、技術者以外の人たちにもバグを見つける、コミュニティのファシリテーターをする、ディスコード(テキストや音声、ビデオでチャットできるコミュニケーションツール)上の意見を深掘るなど、さまざまな貢献の場がある。また、海外で生まれたDAOのプロジェクトに貢献する人を日本で増やすためのスポークスマン的な役割を買って出るのもおすすめだ。
亀井:DAOは性別や年齢、国籍にかかわらず、コミュニティに貢献して報酬を得られる機会をもたらしている。人的資本を含めていろんなキャピタルが流動的に動きまくる点を見ても、DAOは共創の時代における新たなコラボレーションの形だと言える。
鈴木:これは実感値だが、Web3領域では女性が活躍している印象が強い。多様な人たちが活躍しやすいのは魅力のひとつだ。
赤澤:DAOは発展途上の段階にあり、貢献に対する金銭的な保証をはじめ整備が追いついていない面もある。だが、誰もがやりたいことを正面切ってやっていくという意味では、新しい働き方を模索している時代の流れに則している。
──「DAOは参加者が対等に意思決定に関わることができる民主主義の新しい形だ」という声がある一方で、課題もある。例えば、DAOが立ち上がった初期の段階では、コミュニティを先導する人がいるのが一般的だ。また、DAOの運営方針などを決定するための投票に参加する権利を得るにはガバナンストークンを保有(購入)する必要がある。結果的に、声の大きい人や資本力がある人がDAOを動かすことになりかねないのでは。
赤澤:課題があるのは事実だ。例えば、意思決定の方法や意思決定の内容が専門的すぎると、参加者がついていけないことがある。かといって一部の人に判断を任せてしまうと、「これが民主的な組織のあり方だと言えるのか?」となる。さまざまな壁にぶつかりながら新たなソリューションを生み出し、これらの課題を乗り越えることがDAOの世界のネクスト・チャレンジだ。
亀井:ガバナンスのあり方は、今まさに専門家を交えて議論が進んでいる領域だ。DAO TOKYOでは「Experience as Pro-Delegates and DAO Contributors」(プロデリゲートやDAOコントリビューターとしての経験)というセッションを設けたが、DAOがより良くなるように議論し、投票する役割を担うプロの委任者が生まれていることは注目に値する。
鈴木:彼らはアクティビストに似ていると言われがちだが、意見集約の段階からDAOの深部に関わっていく。DAOを活性化するキープレーヤーだと思っている。