食&酒

2023.04.26

コラボは学びの機会。フレンチと和食「35歳トップシェフ」の発見

「山﨑」店主の山崎志朗、「セザン」料理長のダニエル・カルバート

──今回のコラボレーションはベースとなる「食材の味」というものでつながっているように感じました。料理自体のインスピレーションはどこから得られていますか?

カルバート:いろいろな土地で働いたことが自分のインスピレーションの源になっています。例えば「酔っ払い鶏」は、香港の中国料理店で学んだ鶏の調理法や酔っ払い蟹などの料理からアイデアを得ています。

蟹の料理に関しては、私はこれまで厨房でアラミニッツで蟹をさばいていたのですが、山崎さんから、事前にさばいて出汁に漬けておく方法を学んで試作してみたら、そちらの方がおいしかったので、それを応用して、出汁の代わりにトマトウォーターに浸してつくりました。

こうして、新しい手法を学んで、たとえ見た目は大きく変わらなくても、自分の料理を少しずつ、よりおいしくしていくこと。そのために、新しい引き出しを持ちたい、学びたいといつも考えています。

山崎:私はまだ海外で働いたことがないので、それに対する強い渇望があります。毎年3月は学びの月にすると決めていて、店の予約を取らない時期を作り、勉強にあてています。このコラボの2日後にはニューヨークに飛び、名古屋から現地に出店した寿司店「吉乃 NEW YORK」とコラボレーションします。

──お二人とも、料理を「世界を見知りする媒体」として捉えている印象があります。現在35歳、今後の自分のキャリアをどんなふうに描いていますか?

山崎:私の料理人としての原点は、子どもの時に初めて食べた「回らない寿司」なんです。デパートの最上階にあるお店で、超高級店というわけではなかったですが、その時のおいしかった、幸せな気持ちを再現したいと思っています。だから、ずっと現場をやっていきたい。

もちろん、火入れや調理法のアップデートはしょっちゅうありますが、自分でもハッとするような「クリエイション」が生まれるのは、年に1回程度。それは、自分だけで考えていたら絶対に生まれないもの。お客さんにおいしいものを食べてもらいたい、という思いから生まれてくるので、目の前にお客さんがいなくてはその発見はないんです。

例えばレストランの経営者になって、誰かに料理を任せて、毎日夜10時に寝られて、通帳にお金が自動的に貯まっていく生活はいいなあ、と思う気持ちはありますけれど、それは自分のやりたいことではない。結局、お客さんに向き合うことから生まれる発見が好きで、そこに自分が料理をする意味を見出している。だから、一生現場の仕事はやっているのかな、と思います。



カルバート:私ももちろん、料理をしていたい。でも、この先歳をとった時のことを考えると、どんな形であれ、美しいもの、美意識に関する仕事をしていたいと思っています。

美の媒体となるものは、必ずしも食材でだけではありません。フランス料理というのは、大きな組織で作り、トータルの体験を生み出すという側面が非常に強い。インテリアや厨房のデザイン、どのようにサービスをするかを考えるのも重要な要素です。だからこそ、将来的にそういったもののプロデュースをする道もあると考えています。
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文=仲山今日子 写真=皆川聡 編集=鈴木奈央

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