食&酒

2023.04.26

コラボは学びの機会。フレンチと和食「35歳トップシェフ」の発見

「山﨑」店主の山崎志朗、「セザン」料理長のダニエル・カルバート

──今回はコースの12皿全てがコラボレーションです。ジャンルの違う日本料理とフランス料理ですが、それぞれ、そのアイデンティティをどのように考えられますか?

山崎:調理方法について洋の東西を問わず、いろいろな手法を使いますが、自分の店で料理を出すときに必ず考えるのは、「箸やお椀で食べる料理か」ということです。

器が味の印象に与える影響は実は大きい。例えば、出汁をガラスのコップで飲んだら、お椀を飲むのと同じには感じられないですよね。それが私の料理の縛りであり、私が考える日本料理のアイデンティティです。

例えば、「山﨑」では牛フィレのステーキは出さない。箸で食べてもらうには焼いた後に切らなくてはならず、肉汁が流れ出しておいしさが逃げてしまう。少しでもおいしさが損なわれる方法をわざわざ選択しなくてはならないのなら、自分がそれをつくる必要はないな、と思うのです。

どんな器でも気にしないという方ももちろんいますが、僕自身の中で、箸とお椀は「あるべき形」で、自分にとって料理とは、自分の中での「かくあるべき」を形にしていくこと。今回のイベントは、あえてこれまでの「型」を外したのが、とても面白かったです。



カルバート
:伝統に則ってお椀と箸を使うことをアイデンティティだと考えるのがとても興味深い。日本料理は、「変わらない」ことをよしとしますよね。

フランス料理の世界は逆で、伝統的な盛り付けやサービス方法は「アイデンティティがない」と批判される。そして、フランス料理なのに箸を出したら「あのシェフは自分のアイデンティティがある」と評価される。それにフランス料理では、常に変わっていかなくてはならないプレッシャーが日本料理よりも強いように感じます。

今回は二人で作った皿なので、味噌や大徳寺納豆なども使いましたが、私は普段、隠し味に昆布や日本酒を使うことがあっても、ここまではっきりわかるように使いません。私が考えるフランス料理のアイデンティティは、常に味のバランスがフランス料理だと感じられるようにすること、でしょうか。

両者の違いは店のオペレーションにも感じます。今の高級日本料理は山崎さんの店を含めて、カウンターだけのこじんまりした店が多い。料理だけでなく、サービスもシェフがやりますし、花を活けることからトイレの掃除まで全部自分でやらなければなかったりします。

一方でフランス料理、特に私の店はホテルの中にあるので、全部が担当に分かれて組織的に分業化されている。でも、例えば自分で花を買ってきて活けるようなパーソナルなアプローチを取るのも時にはいいのかな、と今回気付かされました。
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文=仲山今日子 写真=皆川聡 編集=鈴木奈央

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