サイエンス

2023.04.16 18:00

中世の修道士が火山学にもたらした意外な貢献

安井克至
1794
大規模な火山噴火に由来する成層圏の塵は、月の姿を見えなくしただけではなかった。地表に届く太陽光を減らし、夏の気温を下げた。その結果、農作物が荒廃した可能性がある。

このように広範囲に影響が及んだにもかかわらず、当時の人々は、不作やいつもと異なる月食に火山が関わっているとは想像だにしなかった。ほとんどの火山噴火は遠く離れた場所で起きたか、文献に残らなかったためだ。

「私たちがこれらの噴火について知っていたのは、南極やグリーンランドの氷に痕跡が残っていたからだ」と、火山学者で英ケンブリッジ大学地理学部教授のクライブ・オッペンハイマーは解説する。「氷床コアから得られた情報と中世の文献の記述を照合することで、この時代における最大規模の噴火がいつ、どこで起きたかをより正確に推定できるようになった」

噴火の発生時期と強度を絞り込むのに役立つだけでなく、この発見が重要な点は、1100~1300年は歴史上最も火山活動が活発だった期間の1つだということが氷床コアの証拠から判明しているからだ。

今回の研究で検討された15回の噴火のうち、13世紀半ばの1回は、1816年に「夏のない年」をもたらしたことで有名な1815年のタンボラ山の噴火に匹敵する規模だったことが明らかになった。

中世欧州で500年間にわたり厳しい冬の天候、不作、氷河の前進をともなう寒冷化が続いた小氷期は、中世に相次いだ噴火が地球の気候に与えた影響によって引き起こされた可能性がある。

「こうした謎に包まれた噴火について知識を深めることは、過去の火山活動が中世の気候だけでなく社会にも影響を与えたのかどうか、またどのように影響したのかを理解する上で極めて重要だ」と研究チームは結論づけている。

この研究「Lunar eclipses illuminate timing and climate impact of medieval volcanism(月食は中世の火山活動の時期と気候への影響を明らかにする)」は、学術誌『Nature(ネイチャー)』に掲載された。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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