「ガチ中華」を気軽にディープに楽しむための4つの心得

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(中級編)本当のおすすめ料理は店内の壁に貼られている!

これほど多くの品数の料理をメニューに載せておきながら、「ガチ中華」の店では、そこに書かれた料理以外のものも提供することがよくある。店のオーナーや料理人が本当に食べさせたい料理や旬の食材を使った季節の味覚は、店内に置かれた黒板などにその都度手書きされていることが多い。それがどんな料理なのか、とりあえずは訊ねてみるといいだろう。

さらに興味深いことに、池袋や上野などの都心のターミナル駅周辺の「ガチ中華」密集地ではなく、筆者が「私鉄沿線系」と呼ぶ郊外の私鉄の駅前にある中国系オーナーの飲食店でよくあることなのだが、これらの店ではおすすめ料理の大半はメニューの中ではなく、店内の壁に写真で貼られていることが多い。

どういうことかというと、私鉄沿線系の店は、地元客が多いため、若い単身のサラリーマンや家族連れなど、日本人の客の比率が高くなる。そうなると、残念ながらその人たちの口に合わせた町中華風のメニューが注文されることが多くなってしまう。

だが、本当に店として食べてほしいのは、やはりオーナーや料理人が得意とする中国の故郷の料理なのだ。それは人情というもので、そういう思いから店の外だけではなく、店内の壁まで料理の写真で埋め尽くされてしまうのである。

なので、筆者はこうアドバイスしている。ガチ中華の店では、美味しいものは印刷されたメニューより、壁に貼られていることが多いと。

ちなみに、季節ごとの旬の料理や新作メニューの告知は、「上新菜了(シャンシンツァイラ)」といって、これも黒板などに書かれている。

高田馬場の湖南料理店「李厨」の店頭に置かれていた新作メニュー(上新菜了)の黒板

高田馬場の湖南料理店「李厨」の店頭に置かれていた新作メニュー(上新菜了)の黒板

筆者が「ガチ中華」に詳しくなった理由

(上級編)常連になって毎回違うメニューを頼んでみる

実を言えば、筆者が「ガチ中華」の料理に詳しくなった理由のひとつは、都内の各店のメニューを徹底的に研究したからだ。これまでの現地取材で、筆者は中国各地の事情にはそれなりに詳しい。とはいえ、それぞれの地方料理をすべて知り尽くしているわけではない。そこで、訪れた各店のメニューを壁に貼られたものまで含め、写真を撮りまくることで、サンプルを集めることにしたのだ。

こうして集めた「ガチ中華」のメニューによく出てくる料理名を、中国で出版された地方料理の本に掲載された料理のリストと比較参照してみたのだ。それぞれの地方料理で主要なものや日本にあるものやないもの、特徴的な食材や調味料は何か。実際に、各店に広く共通する料理のジャンルや人気メニューはどんなものか……。

そこからわかってきたのは、彼らがつくったメニューに表現された世界のなかに「ガチ中華」が凝縮されていることだった。メニューをつぶさに読み込むことで、今日の「ガチ中華」で提供されている料理の趨勢やトレンド、そして全体像をつかむことができたといっていい。

西武新宿線の武蔵関の駅前にある「ガチ中華」の店「翔ちゃん」。店内の壁には料理写真が所狭しと貼られている

西武新宿線の武蔵関の駅前にある「ガチ中華」の店「翔ちゃん」。店内の壁には料理写真が所狭しと貼られている


それを踏まえてのアドバイスだが、もし自分の気に入った味覚の料理が見つかったら、その店の常連になることをおすすめしたい。そして、店を訪ねるごとに毎回新たな料理を頼んでみよう。そのうち、その店が提供する地方料理の主なメニューをひととおり体験でき、特有の食材や味つけの特徴がわかってくるはずだ。こうすることで「ガチ中華」をよりディープに楽しめるはずである。
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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